氷の君に、恋の歌を。

「それ、俺が預かる」

低く静かな声。
見なくてもわかる。
蓮斗だ。

いつの間にか乃愛の隣に立っていた彼は、そのまま紙袋を受け取ると、悠真をまっすぐ見た。

「気づかいはありがたいけど、もう十分だ」

悠真が目を細める。

「またそれ?」

「まただ」

あまりに迷いのない返しに、教室中がしんと静まる。

乃愛はどきどきしながら蓮斗を見上げた。
横顔はいつも通りきれいで冷静なのに、その目だけは少しも譲る気がなかった。

「一宮くん……」

小さく呼ぶと、蓮斗は乃愛のほうを向く。

そして、ごく自然な顔で言った。

「乃愛は俺の恋人だから」

一瞬、時間が止まった。

「……え?」

声を出したのが自分だったのか、周りだったのかもわからない。
次の瞬間、教室が一気に爆発したみたいにざわめく。

「ええええ!?」
「恋人!?」
「一宮くんと森下さんが!?」
「うそでしょ、やばい!」

乃愛の顔は一気に真っ赤になった。
頭の中が真っ白で、何も考えられない。

たしかに付き合っている。
でも、こんなに堂々と、しかもみんなの前で言うなんて聞いていない。

「れ、蓮斗くん……!」

震える声で名前を呼ぶと、蓮斗は少しだけ目をやわらげた。

「隠す必要ないだろ」

さらっと言い切るその姿が、かっこよすぎて困る。

悠真は一瞬驚いたあと、ふっと笑った。

「そっか。じゃあ完全に出遅れたな」

「最初から遅い」

「はいはい。負けました」

軽く両手を上げた悠真は、乃愛に向かってやさしく笑う。

「森下さん、幸せそうでよかった」

「朝比奈くん……ありがとう」

それだけ言うと、悠真はひらひらと手を振って去っていった。