氷の君に、恋の歌を。

昼休みの教室は、いつも通りにぎやかだった。
友達同士の笑い声や、机を寄せてお弁当を食べる音があちこちに広がっている。

乃愛も席で友達と話していたけれど、朝からずっと落ち着かなかった。
理由はわかっている。

昨日、屋上で蓮斗とキスしたからだ。

思い出すたびに顔が熱くなる。
しかも隣の席では、その原因の本人がいつもと変わらない顔で本を読んでいる。
どうしてそんなに平然としていられるのか不思議でたまらない。

「乃愛ちゃん、なんか今日ずっと顔赤くない?」

友達に言われて、乃愛はびくっと肩を揺らした。

「え、そ、そんなことないよ」

「あるある。もしかして恋してる?」

「っ……!」

あまりにも鋭いひと言に、乃愛は返事に詰まる。
その反応だけで、周りの子たちが一気にざわついた。

「え、なになに!」
「ほんとに?」
「相手だれ!?」

「ち、違っ……」

あわてて否定しようとした、そのときだった。

教室の後ろのドアが開いて、朝比奈悠真がひょこっと顔をのぞかせた。

「森下さん、ちょっといい?」

その瞬間、教室の空気がさらに騒がしくなる。

「え、朝比奈先輩じゃん」
「乃愛ちゃん知り合いなの?」
「なんかすごくない?」

注目が一気に集まって、乃愛は困ったように立ち上がる。

「朝比奈くん、どうしたの?」

悠真は笑いながら、小さな紙袋を差し出した。

「この前言ってたおすすめのど飴。練習で喉使うかなって思って」

「わ、ありがとう」

やさしい気づかいに、乃愛は素直に受け取ろうとする。
そのとき。

紙袋の持ち手に、別の手が重なった。