氷の君に、恋の歌を。

次の瞬間。
蓮斗の手が、乃愛の頬にそっと触れた。

「蓮斗くん……」

名前を呼んだ唇に、視線が落ちる。
その熱に気づいたときには、もう逃げられなかった。

「キスしていい?」

聞いているのに、答えを待つ顔じゃない。
それでも乃愛は、真っ赤になりながら小さくうなずく。

「……うん」

触れるだけの、やさしいキス。
ほんの一瞬なのに、世界が止まったみたいだった。

離れたあとも、蓮斗の額が近い。
乃愛は息もまともにできないまま、ただ彼を見上げる。

「これで少しはわかっただろ」

「な、なにが……?」

「俺がどれだけ嫉妬してるか」

また真顔でそんなことを言う。
乃愛は恥ずかしくてたまらないのに、うれしくて仕方ない。

「もう一回」

「え……」

「今度は、乃愛からして」

無茶を言う声まで甘い。
乃愛は震えそうになりながら、そっと蓮斗の制服の袖をつかむ。

こんなの、恥ずかしすぎる。
でも、拒む理由なんてなかった。

背伸びして、そっと唇を重ねる。
一瞬だけの、拙いキス。

けれどその途端、蓮斗の腕が乃愛の腰を引き寄せた。

「っ……」

「それはだめだろ」

低くかすれた声が落ちてきて、乃愛の胸が跳ねる。

「そんなかわいいことされたら、止まれない」

顔が熱くて、もう何も考えられない。
蓮斗はそんな乃愛を抱き寄せたまま、耳元で静かに言う。

「学校ではあんまり無防備にするな」

「無防備って……」

「俺以外にも、おまえをかわいいって思ってるやつはいる」

「でも、私が好きなのは蓮斗くんだけだよ」

思わず口をついて出たその言葉に、今度は蓮斗が固まる番だった。

「……今の、ずるい」

「蓮斗くんにだけは言われたくない」

乃愛が照れながら言うと、蓮斗は少しだけ笑った。
その笑顔はやっぱり、乃愛だけの特別だった。