氷の君に、恋の歌を。

着いたのは、人気のない屋上だった。
秋の風が少しひんやりしていて、火照った頬に気持ちいい。

蓮斗はフェンスの前で立ち止まると、ゆっくり乃愛を振り返った。

「最近、よく話しかけられてるな」

「そ、それは……文化祭のあとだから」

「わかってる」

短く返される。
でもその声は、いつもよりずっと低かった。

乃愛は少し迷ってから、そっと言った。

「……もしかして、嫉妬してる?」

その瞬間、蓮斗の目が細くなる。

「してる」

迷いのない即答に、乃愛の心臓が大きく跳ねた。

「すごく」

そんなふうに真顔で言われたら、反則だ。

「だって、おまえが知らないやつに笑うたび気になる」

一歩、蓮斗が近づく。
乃愛は後ろのフェンスに軽く触れるところまで下がった。

「俺の知らない顔、見せるなって思う」

「でも、普通に話してるだけだよ……?」

「わかってる。わかってても嫌なんだ」

その声には、余裕なんて少しもなかった。
完璧で冷静な蓮斗が、こんなふうに感情を隠せなくなるなんて。
それがうれしくて、苦しくて、胸がいっぱいになる。

「乃愛」

名前を呼ばれる。
低く、甘く、逃がさない声で。

「おまえは?」

「え……」

「俺が、他のやつと話してたら平気か」

想像した瞬間、胸の奥がちくりと痛んだ。
きれいな女の子たちに囲まれて、笑いかけられて、蓮斗がそっちに行ってしまう。
そんなの、嫌に決まってる。

「……やだ」

小さく答えると、蓮斗の瞳が揺れた。

「やだよ」

もう一度言うと、彼は息をのむみたいに少しだけ目を伏せる。

「なら、同じだ」