氷の君に、恋の歌を。

文化祭の翌週。
森下乃愛の名前は、すっかり学校中に広まっていた。

「あの文化祭で歌ってた子でしょ?」
「一宮くんと一緒に出てた子!」
「近くで見たらほんとに可愛い……」

廊下を歩くだけで視線が集まる。
前なら怖くてたまらなかったはずなのに、今は少しだけ平気だった。
あの日、ちゃんと歌えたことが乃愛の中で大きな自信になっていたから。

けれど、ひとつだけ困ることがある。

「森下さん、今日のお昼、一緒にどう?」

「え?」

同じ学年の男子に声をかけられて、乃愛は目を丸くした。
しかもそれは一人だけじゃない。
文化祭以来、話しかけてくる男子が明らかに増えたのだ。

「歌すごかったよ」
「今度また聞かせてよ」

悪い人たちではない。
むしろ好意的で、乃愛も無下にはできない。
けれど、そのたびに遠くから突き刺さるような視線を感じる。

見なくてもわかる。
蓮斗だ。