氷の君に、恋の歌を。

文化祭の終わり。
夕焼けに染まる校舎の屋上で、乃愛はフェンス越しに空を見上げていた。

「ここにいたか」

後ろから来た蓮斗が、隣に並ぶ。

「なんだか、今日だけでいろんなことがありすぎて」

「確かにな」

「でも、うれしかった」

乃愛はそっと笑う。

「歌えたことも、拍手も……蓮斗くんがいてくれたことも」

その言葉に、蓮斗の目がやわらいだ。

「俺のほうこそ」

「え?」

「おまえの歌を、いちばん近くで聞けてよかった」

甘い言葉に、また胸が熱くなる。

乃愛が照れてうつむくと、蓮斗はそっとその手を取った。

「これからは、練習のためじゃなくても一緒にいろ」

「……うん」

「放課後も、帰り道も」

「うん」

「できるなら、ずっと」

その最後のひと言は、反則なくらいやさしかった。

乃愛は頬を赤くしながら笑う。

「蓮斗くんって、ほんとに完璧なのに、ときどきずるいよね」

「乃愛にだけだ」

そう言って、蓮斗は静かに笑った。

氷みたいに冷たかったはずの彼は、もうどこにもいない。
今、乃愛の隣にいるのは、誰よりもあたたかくて、誰よりも大切な人だった。

そして乃愛は思う。
あの日、あの春の廊下で声をかけられた瞬間から、きっと恋は始まっていたのだと。

氷の君に、恋の歌を。
その歌はもう、届いている。
たったひとりの、大好きな人へ。