氷の君に、恋の歌を。

そして迎えた、文化祭当日。

校内は朝から色とりどりの飾りであふれ、どこもにぎやかな空気に包まれていた。
クラスの出し物、笑い声、宣伝の声。
そんな中で乃愛は、ステージ袖に立ちながら小さく手を握りしめていた。

「緊張してる?」

隣で蓮斗が静かに聞く。

「うん。すごく」

素直に答えると、蓮斗はそっと乃愛の手に触れた。

「大丈夫」

短いその言葉が、不思議なくらい心を落ち着かせる。

「俺がついてる」

見上げた先にあるまっすぐな瞳。
その熱に背中を押されて、乃愛は小さくうなずいた。

ステージでは前のクラスの発表が終わり、いよいよ次が乃愛たちの番になる。
司会の声が響く。

「次は二年二組によるピアノと歌のステージです」

ざわめきが広がる。
蓮斗がピアノの前へ向かい、乃愛はスポットライトの中へ一歩踏み出した。

まぶしい。
たくさんの視線。
胸が苦しいほど緊張する。

けれど、逃げなかった。
隣には蓮斗がいるから。

最初のピアノの音が鳴る。
やさしくて、あたたかくて、乃愛を包みこむ音。

大丈夫。
この音を信じればいい。

乃愛は息を吸って、歌い始めた。