氷の君に、恋の歌を。

突然のぬくもりに、乃愛の思考が真っ白になる。

「れ、んとく……」

蓮斗の胸に触れる距離。
制服越しでも伝わる体温に、心臓が壊れそうなくらい速く打つ。

抱きしめる腕は強すぎない。
けれど、離す気のない想いだけは痛いほど伝わってきた。

「ごめん」

耳元で落ちた声は、少しかすれていた。

「今、離したくない」

そのひと言が甘すぎて、乃愛はぎゅっと目を閉じる。

こわくない。
苦しくない。
むしろ、ずっとこうしていたいと思ってしまう自分がいる。

「……いやじゃないよ」

小さく答えると、蓮斗の腕にほんの少しだけ力がこもった。

「それ、反則」

「だって本当だもん……」

乃愛が顔を上げると、すぐ近くに蓮斗の整った顔があった。
いつも冷静な彼が、今は余裕なんてまるでない顔で乃愛を見つめている。

「文化祭が終わるまで、待とうと思ってた」

「え……」

「ちゃんと全部終わってから言うつもりだった」

蓮斗は乃愛の髪にそっと触れる。

「でも無理だった」

その指先さえやさしくて、乃愛の瞳が揺れる。

「乃愛が好きだ」

まっすぐすぎる告白に、胸の奥が熱でいっぱいになる。

最初から、惹かれていた。
冷たいのにやさしくて、不器用なのにまっすぐで。
蓮斗の隣にいるたび、心はとっくに答えを知っていた。

「……私も」

声が震える。
でも今度は怖さじゃない。

「私も、蓮斗くんが好き」

言えた。
その瞬間、蓮斗の表情がふっとやわらぐ。
それは乃愛しか知らない、世界でいちばん特別な顔だった。

「よかった」

ほんの少し笑ったあと、蓮斗は額をそっと乃愛の額に寄せる。

「これで、本当に逃がさない」

「もう……逃げないよ」

乃愛が照れながら言うと、蓮斗は目を細めた。

「なら、文化祭も一緒に立てるな」

「うん」

ふたりの声が、静かな音楽室にやさしく重なった。