氷の君に、恋の歌を。

「……気にするな」

先に口を開いたのは蓮斗だった。

「でも」

「おまえは、おまえのペースでいい」

その声は変わらずやさしい。
やさしいのに、なぜか少し苦しくなる。

「蓮斗くん」

乃愛はそっと彼の名前を呼ぶ。

「私、守ってもらってばっかりだよね」

蓮斗がわずかに目を細めた。

「そんなことない」

「あるよ。私、こわいって言って、逃げそうになるたび蓮斗くんに助けてもらってる」

言葉にするほど、胸の奥が熱くなる。

「でも、本当は変わりたいの。蓮斗くんの隣で、ちゃんと立てるようになりたい」

まっすぐ見上げると、蓮斗の表情がわずかに揺れた。

「だから、文化祭……逃げたくない」

そのひと言を聞いた瞬間、彼の瞳に宿る色が変わる。
冷たさの奥に隠れていた熱が、もう隠しきれないほどあふれそうになっていた。

「乃愛」

低く呼ばれただけで、心臓が跳ねる。

「俺は、おまえが歌うところを見たい」

「うん」

「でもそれ以上に、誰かに取られるのが嫌だ」

息が止まる。

「え……」

「朝比奈みたいに簡単に近づいてくるやつに、おまえのこと見せたくない」

その声は静かなのに、強かった。
まっすぐで、熱くて、逃げ場がない。

「俺だけが知ってればいいって思うくらい、今の俺は余裕がない」

乃愛の胸がぎゅっと締めつけられる。
そんなふうに想われているなんて、夢みたいで苦しい。

「蓮斗くん……」

名前を呼んだその瞬間。
蓮斗は乃愛の腕を引いて、そっと抱き寄せた。