氷の君に、恋の歌を。

その日の帰り道。
いつものようにふたりで並んで歩いていたけれど、どこか空気が違った。

蓮斗があまり話さない。
もともと口数は多くないけれど、今日は特に静かだ。

「蓮斗くん、怒ってる?」

思い切って聞くと、彼は前を向いたまま答える。

「怒ってない」

「でも、なんか冷たい」

「いつも冷たいって言ったのは乃愛だ」

少しだけ拗ねたみたいな返しに、乃愛は思わず立ち止まりそうになった。

まさか。
今のって、もしかして。

「……やきもち?」

小さく言うと、蓮斗の足がぴたりと止まる。

夕暮れの道で振り返った彼の顔は、驚くほど真剣だった。

「だったら、だめか」

低く落ちたその声に、乃愛の胸がぎゅっとなる。

だめなわけ、ない。

「だめじゃ、ないけど……」

「けど?」

「そんなこと言われたら、うれしくなっちゃう」

勇気を出してそう言うと、蓮斗は一瞬だけ目を見開いた。
完璧で余裕そうな彼が、ほんの少しだけ言葉を失う。

その反応がめずらしくて、乃愛はつい笑ってしまう。

「蓮斗くんも、そういう顔するんだ」

「乃愛のせいだ」

「私のせい?」

「ああ」

彼は乃愛のほうへ一歩近づく。
逃げる距離ではないのに、心臓が大きく跳ねる。

「俺以外の前で、簡単にそんな顔するな」

「え……」

「心配になる」

あまりにもまっすぐな独占欲に、乃愛の頭が真っ白になる。

夕日のせいだけじゃない。
たぶん今、自分の顔は真っ赤だ。

「し、しないよ……」

「約束」

「う、うん……」

小さくうなずくと、蓮斗は満足したように目を細めた。
その顔がずるい。
冷たいはずの彼が、乃愛にだけこんな表情を見せるなんて。

「じゃあ俺も約束する」

「え?」

「乃愛が不安になることはしない」

そのひと言は、やさしくて、甘かった。