【番外編】初恋が君に届くまで

「おかえりなさい、綾瀬くん。早かったのね」

夜の8時に帰宅すると、つむぎが満面の笑みで出迎えてくれた。

「ただいま、つむぎ」

丈は優しくつむぎを抱き寄せて頬にキスをする。

「えっと、すぐにご飯にするね」

照れて頬を赤らめたつむぎは、そそくさとキッチンに戻った。

(つむぎを見ていればわかる。俺のことが大好きだと)

自惚れるつもりはないが、つむぎが自分を見上げる瞳はいつも真っ直ぐで、その表情は甘えるような切なそうな、なんともいえない可愛らしさがあるのだ。

(俺のことが大好き! って、口にしなくても伝えてくれる。俺もそんなつむぎが大好きだ)

二人の愛は確かなもの。
それならば今夜確かめよう。
つむぎの「しょうくん」とやらは誰なのか?
そんな人は実在するのか?

つむぎの手料理を美味しく味わったあと、二人並んでソファに座り、お酒を飲む。

(ここはズバッと訊いてみるか。大丈夫、俺は心からつむぎを信じている)

ゴクリと喉を鳴らしてから、右腕でつむぎの肩を抱き寄せてサラリと訊いてみた。

「そう言えばつむぎ、しょうくんって会社の人?」

程よく酔ったつむぎは「しょうくん? って、誰のこと?」と、キョトンと丈を見上げる。

(やっぱり俺の思い違いか、よかった。じゃあ、あれは一体……?)

するとつむぎがうつむき、小さく呟く声が聞こえてきた。

「やだ、思い出しちゃった。どうしよう、やっぱり勇気が出ないのよね。綾瀬くんの顔を見ちゃうと、どうしても……」

えっ?と、丈はつむぎの横顔を見つめる。

つむぎは困ったような表情でため息をついた。

「でもこのままじゃダメ。決めたんだから。恥ずかしがってないで、ちゃんと綾瀬くんの顔を見て言わなきゃ」

なんのことだ?と、丈は眉根を寄せる。

(なにかに悩んでいて、俺に言い出せないとか? 恥ずかしいって、なにがだ?)

ますます訳がわからなくなる。

「つむぎ、なにか悩んでることがあるのか?」

思い切ってそう尋ねたが、返事がない。

「つむぎ?」

顔を覗き込むと、つむぎは丈の肩にトンと頭を載せ、スーッと寝入った。

(やれやれ。俺ってつむぎのことになると、まるで余裕がなくなるな)

つむぎの頭を抱き寄せると、チュッと髪にキスをする。

(どうしたって俺はつむぎが好きだ)

その想いは揺るぎない事実だった。