【番外編】初恋が君に届くまで

(なんだろうなぁ。つむぎはどうしてそんなにルーチェに行きたがる?)

不思議に思いつつも二人でタクシーで向かう。

まだ早い時間なのもあって、店内は空いていた。

「いらっしゃいませ。おや、綾瀬さまご夫妻。今夜はまた一段と麗しいですね」
「こんばんは、マスター。今日は岡田さんと友人の結婚式があったんです」
「そうなのですね、それはおめでたい。次はご夫婦でいらしてくださる日を楽しみにしておりますとお伝えください。綾瀬さまご夫妻にも、今夜は特別なサービスをさせていただきますね。お好きなお席へどうぞ」

ありがとうございます、とマスターに答えたつむぎは丈を振り返る。

「綾瀬くん、窓際の席でもいい?」

もちろんと目を向けた丈は、ん?と首をひねった。

「ひょっとして内装変わった?」

「そうなの!」とつむぎが笑顔になる。

「岡田さんと相談してフィラートのソファとテーブルを入れてもらったんだ。見てみて!」

待ち切れないように手を引くつむぎに頬を緩めて、二人で窓際のソファ席に着いた。

「お、これ座り心地いいな。背もたれが高いし」
「でしょ? それにね、二人でもたれてみたら……ほら!周りから見えなくなって、私たちだけの世界になるの」
「ホントだ」

背面が緩くカーブしていて、背を預けると周囲からは死角になる。

目の前には夕暮れの美しい景色が広がっていた。

「落ち着くな、ここ」
「うん、いいよね。カップルのお客様からも好評なんですって」
「そうか、よかったなつむぎ」
「うん!」

二人でワインを飲みながら、マスターが特別に振る舞ってくれるコース料理を味わう。

窓の外の景色は刻一刻と変わり、美しいグラデーションで彩られた。

「つむぎ、見てあそこ。1番星だ」
「本当だ。小さくてきれいだね」
「ああ。あの星は、俺にとってのつむぎだよ」

するとつむぎは頬を赤らめ、パチパチと瞬きしてからうつむいた。

「どうしよう、今すっごく幸せなんだけど。思い切って言っちゃおうかな……」

つむぎのひとり言に、丈も思い出す。

(そうか、つむぎは子作りのことを今夜こそ相談したいんだよな)

小さく咳払いしてから居住まいを正し、丈はつむぎの様子を横目でうかがう。

(もしどうしても言いにくそうなら、俺から切り出そう)

そう思っていると「お待たせいたしました」とデザートが運ばれてきた。

「わあ、すごい! なんて豪華なの」

生クリームとイチゴのショートケーキに、ジェラートとティラミスが添えられ、プレートには【Happy Wedding】とチョコレートソースで書かれていた。

「改めまして、綾瀬さん、つむぎさん、ご結婚おめでとうございます!」

マスターや他のスタッフも拍手で祝福してくれ、二人は「ありがとうございます」と笑顔で答えた。