『もしもし、つむぎ?』
夜の8時半。
新居で夕食を作っていたつむぎに、丈から電話がかかってきた。
「綾瀬くん、どうかした?」
『ごめん、急にシステムメンテナンスの仕事が入ったんだ。25時から1時間ほどかかる。俺の分の夕食は冷蔵庫に入れておいてくれる? 明日食べたい』
「うん、わかった。じゃあ軽くお茶漬けでも用意してるね」
『いや、帰りは遅くなるからつむぎは先に寝てな』
「でも……」
『ダメだ。いい子だからちゃんと寝てて』
渋々「うん……」と頷くと、丈は『戸締まり気をつけて。おやすみ、つむぎ』と言って電話を切った。
(あーあ、今夜は綾瀬くんに会えないのか)
つむぎはしょんぼりと肩を落とした。
結婚してもうすぐ1ヶ月。
毎日丈と一緒にいられる幸せを感じながら、時折一人になるとたまらなく寂しくなる。
(会えないって言っても、夜遅くには帰って来てくれる。でも起きて待ってたら、こらって怒られちゃうし……。綾瀬くん、心配症のお父さんみたい。同い年なのにな)
丈の分のおかずを冷蔵庫にしまい、一人でダイニングテーブルに着くと、食欲もなくなってしまった。
(一人で食べてもなんだか味気ない。綾瀬くんが『美味しい』ってパクパク食べてくれるから、私も美味しく感じるんだろうな。って、どれだけ綾瀬くんのことばっかり考えてるのよ、私ったら)
急に恥ずかしくなってきて、赤くなる頬を両手で冷ます。
(早く会いたいな、綾瀬くんに)
そう思いつつ、ふと我に返った。
(いい加減、綾瀬くんって呼び方も変えないと)
職場では『綾瀬つむぎ』として仕事をするのに慣れてきた一方で、うちではまだ丈に対して『綾瀬くん』と呼んでしまう。
(これからはちゃんと呼び方を変えよう。えっと、『あなた』とか? やだ、恥ずかしい! じゃあせめて『丈くん』とか?)
想像しただけで照れてしまう。
(うーん、難しいよー。ハードル高いな。でもがんばらなきゃ。そうだ! 目標は6月30日。その日までにちゃんと呼べるようにしよう)
カレンダーに目をやると、赤いハートマークをつけた6月30日には【友ちゃん&岡田さん Wedding】の書き込みがしてあった。
そう、その日は友美と岡田の結婚式があり、つむぎも丈と二人で招待されていた。
(披露宴が終わるのは夕方だから、そのあと二人でデートしよう。その時にはちゃんと『丈くん』って呼べるようにするぞ)
よし、と気合いを入れると、ひたすら頭の中で練習する。
(じょ、じょー、くん。いや、これだとジョーになっちゃう。もっとスムーズに『丈くん』って言わなくちゃ。丈くん、丈くん……。ひゃー、恥ずかしい)
食器洗いをしながら、シャワーを浴びながら、ひたすら呟いては照れて身悶えた。
夜の8時半。
新居で夕食を作っていたつむぎに、丈から電話がかかってきた。
「綾瀬くん、どうかした?」
『ごめん、急にシステムメンテナンスの仕事が入ったんだ。25時から1時間ほどかかる。俺の分の夕食は冷蔵庫に入れておいてくれる? 明日食べたい』
「うん、わかった。じゃあ軽くお茶漬けでも用意してるね」
『いや、帰りは遅くなるからつむぎは先に寝てな』
「でも……」
『ダメだ。いい子だからちゃんと寝てて』
渋々「うん……」と頷くと、丈は『戸締まり気をつけて。おやすみ、つむぎ』と言って電話を切った。
(あーあ、今夜は綾瀬くんに会えないのか)
つむぎはしょんぼりと肩を落とした。
結婚してもうすぐ1ヶ月。
毎日丈と一緒にいられる幸せを感じながら、時折一人になるとたまらなく寂しくなる。
(会えないって言っても、夜遅くには帰って来てくれる。でも起きて待ってたら、こらって怒られちゃうし……。綾瀬くん、心配症のお父さんみたい。同い年なのにな)
丈の分のおかずを冷蔵庫にしまい、一人でダイニングテーブルに着くと、食欲もなくなってしまった。
(一人で食べてもなんだか味気ない。綾瀬くんが『美味しい』ってパクパク食べてくれるから、私も美味しく感じるんだろうな。って、どれだけ綾瀬くんのことばっかり考えてるのよ、私ったら)
急に恥ずかしくなってきて、赤くなる頬を両手で冷ます。
(早く会いたいな、綾瀬くんに)
そう思いつつ、ふと我に返った。
(いい加減、綾瀬くんって呼び方も変えないと)
職場では『綾瀬つむぎ』として仕事をするのに慣れてきた一方で、うちではまだ丈に対して『綾瀬くん』と呼んでしまう。
(これからはちゃんと呼び方を変えよう。えっと、『あなた』とか? やだ、恥ずかしい! じゃあせめて『丈くん』とか?)
想像しただけで照れてしまう。
(うーん、難しいよー。ハードル高いな。でもがんばらなきゃ。そうだ! 目標は6月30日。その日までにちゃんと呼べるようにしよう)
カレンダーに目をやると、赤いハートマークをつけた6月30日には【友ちゃん&岡田さん Wedding】の書き込みがしてあった。
そう、その日は友美と岡田の結婚式があり、つむぎも丈と二人で招待されていた。
(披露宴が終わるのは夕方だから、そのあと二人でデートしよう。その時にはちゃんと『丈くん』って呼べるようにするぞ)
よし、と気合いを入れると、ひたすら頭の中で練習する。
(じょ、じょー、くん。いや、これだとジョーになっちゃう。もっとスムーズに『丈くん』って言わなくちゃ。丈くん、丈くん……。ひゃー、恥ずかしい)
食器洗いをしながら、シャワーを浴びながら、ひたすら呟いては照れて身悶えた。



