「ねえ、知ってる?」
いつだったか、誰かがそんなことを言っていた気がする。
この街には、時が止まる隙間があるんだって。
満ちては引いていく潮の目と、夜空を巡る星の座が、ほんの一瞬だけ完璧に重なる瞬間。
世界の継ぎ目がふっと緩んで、昨日と今日の境界線が消えてしまう、神様の悪戯みたいな二十四時間があるんだって。
もしも、その終わらない一日の中に、僕たちが閉じ込められてしまったのだとしたら。
世界中の誰もが彼女を忘れて、歴史の教科書からも、スマホのフォルダからも、みんなの記憶からも彼女の存在が綺麗さっぱり消去されてしまったのだとしたら。
それでも、僕のこの不器用な両手は、彼女の頼りない体温を覚えている。
僕の全細胞は、彼女がそこにいたという世界のノイズを、叫ぶように記憶している。
これは、世界のかたちを変えてしまった、僕と彼女の、たった一日の恋の物語だ。
あの眩しすぎるウロボロス彗星の光の下で、僕たちは、誰も知らない夏の迷路へと走り出した――。

