「……苦しいよ」
かすれた声だった。
初めてだった。
湊が、自分から弱い言葉をこぼしたのは。
紬は胸の奥が熱くなって、でも同時にひどく切なくなった。
やっと聞けた本音なのに、それがうれしいだけでは済まない。
こんなにひとりで抱えていたのだと思うと、泣きたくなる。
「朝比奈くん」
呼ぶと、湊は少しだけ目を閉じた。
「頑張りすぎだよ」
「頑張らないと回らないから」
「でも」
「わかってる」
言いながら、彼は小さく笑う。
その笑顔が、あまりにも疲れていて、紬はたまらなくなった。
気づけば、テーブルの上の彼の手に、そっと自分の指先を重ねていた。
触れた瞬間、ふたりとも息を止める。
ほんの一瞬だった。
でも、そのぬくもりだけで、言葉にできない気持ちが胸いっぱいに広がる。
「……ごめん」
慌てて手を引こうとした紬の指を、湊がかすかに止めた。
強くではない。
逃がさないというより、もう少しだけ、みたいに。
紬は顔を上げる。
湊も、紬を見ていた。
「今だけ」
低い声で、彼は言った。
「少しだけ、このままでいて」
その声が切なすぎて、紬はうなずくことしかできなかった。
ふたりの手が、テーブルの上で静かに触れている。
恋人でもない。
まだ想いを伝え合ったわけでもない。
それでも、このぬくもりはあまりにもやさしくて、あまりにも苦しかった。
甘いのに、泣きそうだった。



