春の終わりの雨は、いつも少しだけやさしい。
傘に落ちる雨音を聞きながら、白石紬は、校門の前で立ち止まっていた。
帰ればいいのに、帰りたくなかった。
家に帰ったところで、明るい声が待っているわけでもない。
おかえり、と笑ってくれる母は、もういない。
紬が母を亡くしたのは、中学二年の冬だった。
病室の白い天井と、細くなった母の手の感触は、今も指先に残っている。
時間がたてば薄れていくと大人たちは言ったけれど、そんなことはなかった。
痛みは消えない。
ただ、泣き方が上手になるだけだ。
紬は濡れたアスファルトを見つめて、小さく息を吐いた。
すると、すぐ隣で声がした。
「帰らないの」
低くて静かな声だった。
振り向くと、同じクラスの朝比奈湊が立っていた。
背が高くて、整った顔立ちで、教室ではいつも目立つのに、不思議と騒がしいタイプではない。
誰かと群れることも少なくて、必要以上に笑わない。
だから紬は、少し苦手だった。
何を考えているのか、わからないから。
「……別に」
そう返すと、湊は紬の手元を見た。
開いていない傘。
濡れそうなスカートの裾。
帰りたくないと言葉にしなくても、見抜かれた気がして、紬は眉を寄せた。
傘に落ちる雨音を聞きながら、白石紬は、校門の前で立ち止まっていた。
帰ればいいのに、帰りたくなかった。
家に帰ったところで、明るい声が待っているわけでもない。
おかえり、と笑ってくれる母は、もういない。
紬が母を亡くしたのは、中学二年の冬だった。
病室の白い天井と、細くなった母の手の感触は、今も指先に残っている。
時間がたてば薄れていくと大人たちは言ったけれど、そんなことはなかった。
痛みは消えない。
ただ、泣き方が上手になるだけだ。
紬は濡れたアスファルトを見つめて、小さく息を吐いた。
すると、すぐ隣で声がした。
「帰らないの」
低くて静かな声だった。
振り向くと、同じクラスの朝比奈湊が立っていた。
背が高くて、整った顔立ちで、教室ではいつも目立つのに、不思議と騒がしいタイプではない。
誰かと群れることも少なくて、必要以上に笑わない。
だから紬は、少し苦手だった。
何を考えているのか、わからないから。
「……別に」
そう返すと、湊は紬の手元を見た。
開いていない傘。
濡れそうなスカートの裾。
帰りたくないと言葉にしなくても、見抜かれた気がして、紬は眉を寄せた。



