君の才能ごと、独り占め

昼休み。
私は図書室で借りた本を返して、教室へ戻ろうとしていた。

その途中で、声をかけられる。

「橘さん」

振り向くと、見覚えのある先輩が立っていた。

文化祭の日、教室まで来た三年生の先輩。
あの日は恒一くんが間に入ってくれたけれど、こうして改めて話しかけられると少し緊張する。

「この前は急にごめん」

「いえ」

「少しだけ話してもいい?」

断ろうか迷った。
でも、ここは廊下の真ん中だし、少し話すだけならと思ってしまった。

「少しだけなら」

そう答えると、先輩はやわらかく笑った。

「文化祭の演奏、本当に良かった。あれからずっと頭に残ってて」

「ありがとうございます」

「よかったら今度、軽音の先輩たちとも話してみない? 橘さん、絶対もっといろんな場で弾けると思う」

その言葉に、私は少しだけ目を瞬いた。

誘い方は穏やかだけど、期待の目だとすぐわかる。
前みたいに苦しくはない。けれど、簡単にうなずく気にもなれなかった。