君の才能ごと、独り占め

期待されるために弾くのではなく、好きだから弾く気持ちを取り戻したかった。

「わかった。無理はしなくていいよ」

先生が引き下がってくれて、私はほっとする。

けれど、そのあと教室を出るまで背中に刺さる視線が少し痛かった。

やっぱり変に思われたかもしれない。

才能があるなら披露して当然。そう思う人は多い。

断るたびに、がっかりされる。

その視線が積み重なるたび、私の中で音楽が少しずつ苦しくなっていった。

昇降口で靴を履き替えていると、頭上から声が落ちた。

「断ると思った」

顔を上げると、榊くんが立っていた。

「聞こえてた?」

「教室にいたから」

「そっか」

私は笑おうとして、うまくいかなかった。

「変かな」

「何が」

「ピアノ弾けるのに、頼まれて断るの」

榊くんは少しだけ黙ったあと、静かに言った。