君の才能ごと、独り占め

ホームルーム前の静かな時間。
窓の外から朝の風が入ってくる。

私は前を向いたまま、小さくつぶやく。

「まだどうなるかわかんないけど」

恒一くんが隣で聞いている気配がする。

「でも、また少しずつ弾いてみようかなって思った」

言い終えた瞬間、胸が少しだけ高鳴る。
自分で口にしたからこそ、本当に前へ進み始めた気がした。

恒一くんはしばらく黙って、それから低い声で言った。

「うれしい」

そのたった一言が、何よりもうれしかった。

私は横を向く。
恒一くんもこっちを見る。

大きな言葉はいらなかった。
約束も、誓いも、今はまだいらない。

怖さが残っていてもいい。
ゆっくりでもいい。
それでも、自分の足で少しずつ進んでいけるなら、それで十分だと思えた。

そして、その隣に恒一くんがいてくれるなら。
きっと私は、前より強くなれる。

チャイムが鳴る。

新しい一日が始まる音。
でもそれは、何かが終わる音でもなくて。
これから先へ続いていくための、やさしい始まりの音だった。

私はそっと前を向く。

もう逃げるだけじゃない。
まだ怖くても、自分の好きだったものも、大切な人も、ちゃんと抱きしめていきたい。

そう思えた。

それがきっと、今の私にとっての答えだった。