君の才能ごと、独り占め

でも彼になら言える気がした。

「好きなのに、上手く弾くこととか、期待に応えることとか、そういうのばっかりになって。楽しいって思えなくなってたの」

榊くんは黙って聞いていた。

否定も同情もしない。

ただ静かに、待ってくれる。

「だから人前で弾くのも少し怖くて。せっかく転校したのに、またすぐああいうふうに見られるのかって思ったら、苦しくなっちゃって」

最後のほうは少し笑って誤魔化した。

暗い話をしてしまったかもしれないと思ったけれど、榊くんはしばらくしてから低い声で言った。

「じゃあ、無理に弾かなくていい」

その言葉を、また彼は迷いなくくれる。

「でも」

「好きなものを嫌いになるまでやる必要ない」

「……うん」

「取り戻せばいいだろ。楽しいって気持ち」

夕陽の差し込む音楽室で、その言葉はびっくりするほどまっすぐ心に届いた。

取り戻せばいい。

簡単なようで、今の私には何より難しかったこと。

でも彼が言うと、それが少しだけできそうに思えた。

「ねえ、榊くん」

「ん」

「もう一回、さっきの曲弾いて」

彼は眉を上げる。