君の才能ごと、独り占め

駅までの道は、今日はいつもより短く感じた。

話す言葉は多くない。
それでも沈黙は苦しくない。
むしろ、何も言わずに歩く時間まで心地いい。

「ピアノ」

ふいに恒一くんが口を開く。

私は少しだけ肩を揺らす。
でも彼の声は、変わらずやさしかった。

「今日、聞けてうれしかった」

「……そっか」

「ありがとう」

ありがとう。
その言葉に、私は少し驚く。

上手だったとか、すごかったじゃなくて。
聞かせてくれてありがとうと言われたのが、うれしかった。

「こわくなかった?」

私が小さく聞くと、恒一くんは首をかしげる。

「何が」

「話、重かったかなって」

すると彼は少しだけ眉を寄せた。

「重いとか思わない」

きっぱりした声だった。

「星音のこと知れてうれしかった」

胸の奥がじんと熱くなる。

「苦しかったことまで?」

「そこも含めて」

その答えに、私は歩きながら少しだけ目を伏せる。

好きな人に弱いところを見せるのは怖い。
でも見せたあとで、こんなふうに受け止めてもらえるなら。
少しずつでも、ちゃんと伝えていける気がした。

「……私、また弾けるかわかんないけど」

「うん」

「でも今日、少しだけ前より怖くなかった」

恒一くんがゆっくり私を見る。

「それなら十分」

たったそれだけ。
でも、無理に頑張らせないその言葉が今の私にはいちばんやさしい。