君の才能ごと、独り占め

私はしばらく黙っていた。
でも、隣にいるのが恒一くんだからかもしれない。
今日は、少しだけ話してもいい気がした。

「私ね」

声がかすかに震える。

「前は、ピアニストになるのが夢だったの」

恒一くんは黙って聞いている。

「小さいころからずっと弾いてて、コンクールも受けて、周りにも期待されてた」

ひとつ話すと、止めていたものが少しずつこぼれ出す。

「天才だって言われたこともあった。将来が楽しみだって。絶対に上に行けるって」

でも。

その続きを言うのは、少し苦しかった。

「……うれしかったはずなのに、だんだん怖くなった」

恒一くんの気配が少しだけ近くなる。

「間違えたらだめ。失敗したらがっかりされる。もっと上手くならなきゃって、ずっと思ってた」

指先が冷たくなる。
思い出すだけで、息が浅くなる。

「好きだったはずなのに、気づいたらピアノの前に座るのが苦しくなってた」

音楽室は静かなままだった。
でもその静けさが今はありがたい。