君の才能ごと、独り占め

まだ教室の中はざわついていた。

すると前の席の女子がくるっと振り向く。

「ねえ橘さん、文化祭の演奏ほんとすごかったよね」

「ありがとう」

「先生も職員室で話してたらしいよ。あれ、コンクール出てた人の弾き方だって」

その言葉に、私は少しだけ指先を止めた。

元天才ピアニスト。
今はもう誰にも言っていないはずの過去。
でも演奏を見れば、勘のいい人には何か伝わるのかもしれない。

「昔、けっこう習ってたから」

できるだけ軽く答える。
でもその子は目を輝かせたまま続けた。

「けっこうってレベルじゃないでしょ。絶対本格的だったよ」

近くの男子まで会話に入ってくる。

「たしかに。あれプロみたいだった」

「次の合唱祭も伴奏やってよ」

「音楽の先生も頼みたがりそう」

次々飛んでくる言葉に、私は少し困って笑った。

注目されるのは、まだ慣れない。
ピアノのことを褒められるのもうれしいのに、同時に少しだけ苦しくなる。