君の才能ごと、独り占め


ある日の放課後、音楽室でプリントを届ける用事を頼まれた私は、一人で特別棟へ向かっていた。夕方の校舎は静かで、窓から差し込む西日が廊下を長く染めている。

音楽室の前まで来たとき、中から微かにピアノの音が聞こえた。

足が止まる。

ゆっくりドアの小窓から中をのぞくと、誰もいない音楽室のグランドピアノの前に、一人の男子が座っていた。

榊くんだった。

驚きで息をのむ。

彼の長い指が鍵盤の上を静かに滑っていく。派手ではない、でも信じられないほど繊細で綺麗な音。夕暮れの光の中で、その横顔はいつもよりずっとやわらかく見えた。

私はしばらく動けなかった。