君の才能ごと、独り占め

「橘さん」

振り返ると、見覚えのない男子が立っていた。
同じ学校の制服だけど、学年はたぶん上。二年ではない。

「この前の演奏、すごかったよ」

「あ、ありがとうございます」

「少し話したいんだけど、いい?」

廊下の真ん中。
人通りもある。
だから私は、少しだけならと思って足を止めてしまった。

「すみません、待ち合わせがあるので」

やんわりそう返したのに、その男子は距離を詰めてくる。

「少しだけでいいから」

「本当に、急いでて」

私は一歩下がった。
その瞬間、相手の手が私の腕をつかむ。

ぞっとした。

「離してください」

笑ってごまかす余裕なんて、一気になくなった。
声も思ったより硬くなる。