怖いはずの彼は、今日も私にだけ甘い♡

「気をつけます」 「財布も落とすな」 「う……はい」

小さくなる私を見て、神崎くんはほんの少しだけ口元をゆるめた。

……今、笑った?

そう思った瞬間、胸がきゅっと苦しくなる。

こわい人だと思っていた。 近づいちゃいけない人だと思っていた。

なのに。

ほんの少し見えた優しさだけで、こんなに気になってしまうなんて。

それから、神崎くんは不思議なくらい、私を気にかけるようになった。

廊下で男子に囲まれて困っていれば、「邪魔」と一言で追い払う。 重い教材を運んでいれば、無言で半分持っていく。 雨の日に傘を忘れれば、自分の傘を私に押しつけて、本人は濡れたまま歩いていく。

しかも、そのどれもがさりげない。 恩着せがましさなんて、ひとつもない。

でも、だからこそ困る。

私は毎回、助けられるたびに、好きになってしまうから。

ある日の昼休み。 私は中庭のベンチで、お弁当を広げていた。

美優は日直で呼ばれてしまって、今日はひとり。 風が気持ちよくて、ぼんやり卵焼きをつついていた、そのときだった。

目の前に影が落ちる。

顔を上げると、神崎くんが立っていた。

「ここ、座る」 「えっ」

聞くというより、確認みたいな言い方だった。 私はあわてて端に寄る。

神崎くんは隣に座ると、購買のパンをひとつ取り出した。

沈黙。

近い。 近すぎる。

私はお弁当を持つ手に変な力が入って、危うく唐揚げを落としそうになった。

「……おまえ」 「は、はい」 「なんでそんな緊張してんの」 「し、してないよ」 「してるだろ」

即答されて、何も言い返せない。

すると神崎くんは、私のお弁当を見て小さく眉を上げた。