夜道を歩きながら、ふと昼間のことを思い出す。 文化祭でたくさんの人に囲まれていた時間も楽しかった。 でも今みたいな静かな時間のほうが、神崎くんの気持ちが近くに感じる。
「今日は楽しかったね」 わたしが言うと、神崎くんは短くうなずいた。
「おまえがいたからな」 「……それ、ずるい」 「今日何回目だよ」 「だってずるいんだもん」 「もっと言おうか」 「もう十分です」 「顔真っ赤」 「神崎くんのせい」 「知ってる」
楽しそうに言われて、少し悔しい。 でも、その悔しさすら幸せだった。
家の近くまで来たころ、神崎くんが足をゆるめる。
「もう着くな」 「うん」 「早い」 「ほんとだね」 「まだ帰したくねぇ」 小さくつぶやかれたその一言に、胸がきゅっとなる。
わたしも同じことを思っていた。 もう少しだけ一緒にいたい。 もう少しだけ、このあたたかい時間の中にいたい。
「……少しだけ」 「ん?」 「少しだけなら、まだいたい」 勇気を出してそう言うと、神崎くんが息をのんだ気がした。
次の瞬間、つないでいた手を引かれて、わたしはまた彼の近くに引き寄せられる。
今度はさっきよりも近い。 抱きしめる寸前みたいな距離。
「ほんとに無理」 「え」 「かわいすぎ」 「また……」 「そんな顔で引き止められたら、帰したくなくなる」
低い声が甘くて、くらくらする。
それでも神崎くんは、ちゃんと最後の一線を越えない。 ただ、名残惜しそうにわたしの前髪に触れて、それから額にそっと唇を寄せた。
一瞬だった。 でも頬じゃないその場所に、心臓が壊れそうなくらい跳ねる。
「……おやすみ」 神崎くんが少しかすれた声で言う。
「お、おやすみ……」 「帰ったら連絡しろ」 「うん」 「ちゃんと寝ろ」 「神崎くんも」 「おまえの声聞いたら寝れなくなる」 「もう……」
最後までずるいことばかり言って、神崎くんはようやく少しだけ離れた。
文化祭のあとの夜道は、昼間より静かで、でもずっと甘かった。 にぎやかな時間のあとに訪れる、ふたりだけのしずかなご褒美みたいだった。
こわいはずの彼は、今日もやっぱりわたしにだけ甘すぎる。 そしてたぶん、こういう帰り道が増えるたびに、わたしたちはもっと恋に落ちていく。そう感じさせる夜だった。
「今日は楽しかったね」 わたしが言うと、神崎くんは短くうなずいた。
「おまえがいたからな」 「……それ、ずるい」 「今日何回目だよ」 「だってずるいんだもん」 「もっと言おうか」 「もう十分です」 「顔真っ赤」 「神崎くんのせい」 「知ってる」
楽しそうに言われて、少し悔しい。 でも、その悔しさすら幸せだった。
家の近くまで来たころ、神崎くんが足をゆるめる。
「もう着くな」 「うん」 「早い」 「ほんとだね」 「まだ帰したくねぇ」 小さくつぶやかれたその一言に、胸がきゅっとなる。
わたしも同じことを思っていた。 もう少しだけ一緒にいたい。 もう少しだけ、このあたたかい時間の中にいたい。
「……少しだけ」 「ん?」 「少しだけなら、まだいたい」 勇気を出してそう言うと、神崎くんが息をのんだ気がした。
次の瞬間、つないでいた手を引かれて、わたしはまた彼の近くに引き寄せられる。
今度はさっきよりも近い。 抱きしめる寸前みたいな距離。
「ほんとに無理」 「え」 「かわいすぎ」 「また……」 「そんな顔で引き止められたら、帰したくなくなる」
低い声が甘くて、くらくらする。
それでも神崎くんは、ちゃんと最後の一線を越えない。 ただ、名残惜しそうにわたしの前髪に触れて、それから額にそっと唇を寄せた。
一瞬だった。 でも頬じゃないその場所に、心臓が壊れそうなくらい跳ねる。
「……おやすみ」 神崎くんが少しかすれた声で言う。
「お、おやすみ……」 「帰ったら連絡しろ」 「うん」 「ちゃんと寝ろ」 「神崎くんも」 「おまえの声聞いたら寝れなくなる」 「もう……」
最後までずるいことばかり言って、神崎くんはようやく少しだけ離れた。
文化祭のあとの夜道は、昼間より静かで、でもずっと甘かった。 にぎやかな時間のあとに訪れる、ふたりだけのしずかなご褒美みたいだった。
こわいはずの彼は、今日もやっぱりわたしにだけ甘すぎる。 そしてたぶん、こういう帰り道が増えるたびに、わたしたちはもっと恋に落ちていく。そう感じさせる夜だった。



