怖いはずの彼は、今日も私にだけ甘い♡

同じ学校の生徒だ。 でも、知っている顔じゃない。

私は財布を握りしめたまま、一歩下がった。

「すみません、帰るので……」

「そんな怖がんなって」 「送ってってやるよ」

笑いながら近づいてくる足音に、心臓が嫌なくらい大きく鳴る。

逃げなきゃ。

そう思ったのに、足がすくんで動けなかった。

そのとき。

「……そこで何してんだよ」

低くて、冷たい声が教室の外から響いた。

全員がぴたりと動きを止める。

廊下の向こうから現れたのは、神崎くんだった。

片手をポケットに突っ込んだまま、こちらを見る目は鋭い。 昼間よりずっと機嫌が悪そうに見えて、思わず私まで息をのんだ。

男子のひとりが舌打ちする。

「別に。話してただけだし」 「そう見えねぇけど」

神崎くんは教室の中に入ってきて、私の前に立った。 まるで隠すみたいに。

その背中は広くて、さっきまで震えていたはずなのに、少しだけ安心してしまう自分がいた。

「行け」

短く言われて、私は目を瞬いた。

「え……」 「帰るんだろ」 「で、でも……」

「いいから」

振り返らないまま言われて、私はぎゅっと財布を握りしめた。

今ここで立ち止まるほうが迷惑かもしれない。 そう思って、小さく「ありがとう」とつぶやき、教室を飛び出した。

廊下を走りながら、胸がどきどきしていた。

怖かったからじゃない。

たぶん、あの背中を見たせいだ。