日曜日の朝。
葵はいつもより遅く目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光を眺めながら、昨日のことを思い出す。
海。
砂浜。
波の音。
悠真と並んで歩いた時間。
そして、帰りの電車。
目を閉じると、まだ昨日の景色が浮かんでくる。
「楽しかったな……」
葵は小さく呟いた。
スマートフォンを見る。
悠真からメッセージが届いていた。
『昨日はありがとう』
葵は少し笑う。
『こちらこそ。楽しかった』
送信して、しばらく画面を眺める。
昨日の帰り道。
悠真は何度も笑っていた。
昔と同じように。
でも、どこか違った。
その違いが何なのか、葵にはまだ分からない。
午後。
葵は一人で買い物に出かけた。
昨日の海で撮った写真を整理しようと思ったけれど、そもそも写真をほとんど撮っていないことに気づく。
昔なら、何枚も撮っていた。
二人の写真。
海の写真。
食事の写真。
思い出を残すために。
でも昨日は、スマートフォンをほとんど触らなかった。
悠真と話していた。
海を見ていた。
笑っていた。
それだけだった。
それで十分だった。
街を歩いていると、ショーウインドウに夏物の服が並んでいる。
葵は足を止めた。
淡い色のワンピースが目に入る。
「かわいい」
思わず呟く。
以前なら、悠真が好きそうかどうかを考えただろう。
でも今日は違う。
自分が好きかどうか。
それだけを考えて店に入った。
一方、悠真も自宅で昨日のことを思い返していた。
海から帰ってきてから、何度も同じ場面を思い出している。
葵が笑っていた。
以前より、自然に笑うようになった気がする。
仕事の話をしていたときも。
海を見ていたときも。
食事をしていたときも。
何かに追われるようなところがなくなっていた。
悠真は、そんな葵を見て安心した。
そして同時に、胸の奥が少し痛んだ。
自分がいなくても、葵はちゃんと自分の時間を生きられる。
それは嬉しいことのはずだった。
なのに。
なぜか、寂しかった。
悠真はスマートフォンを手に取る。
葵に電話しようかと思った。
けれど、やめた。
昨日、一日中一緒にいた。
今日は葵にも葵の時間がある。
そう思って、スマートフォンを置いた。
夜。
葵のスマートフォンが震えた。
悠真からだった。
『今日、何してた?』
葵は返信する。
『買い物してた。昨日見た服に似たのがあって』
『昨日の服?』
『違うよ。昨日は見てない』
『そうか』
そこで会話が途切れる。
葵は少し考えた。
以前なら、自分から話題を探した。
でも今日は、そのままスマートフォンを置いた。
少しして、また震える。
『葵』
『ん?』
『昨日、楽しかった?』
その質問に、葵は少し驚いた。
昨日、何度も楽しかったと言った。
それなのに。
わざわざ聞くということは、悠真の中にも何か残っているのだろうか。
『楽しかったよ』
葵は返信した。
『すごく』
しばらくして、
『俺も』
と返ってくる。
それだけ。
それなのに、葵には分かった。
悠真も、昨日のことを何度も思い出している。
同じ景色を見た。
同じ海を見た。
同じ時間を過ごした。
それでも、二人が同じ未来を見ているとは限らない。
そのことに気づいた瞬間、葵の胸に小さな不安が生まれた。
けれど、葵はその不安から逃げなかった。
まだ答えを出す必要はない。
昨日が楽しかった。
また会いたいと思った。
それだけは確かなことだから。
夜が深くなった頃。
葵はベッドに入り、天井を見つめていた。
昨日の海を思い出す。
そして、四年前の自分を思い出す。
あの頃は、未来がずっと続くと思っていた。
今は、未来が分からない。
けれど。
分からないからこそ、自分で選んでいくしかないのだと思う。
悠真がどうするのか。
自分がどうするのか。
二人がこれからどんな道を歩くのか。
まだ、何も決まっていない。
それでも。
昨日、海へ行ったことは間違いではなかった。
葵は目を閉じる。
楽しかったという気持ちを、そのまま胸にしまう。
いつか、この日も思い出になるのだろう。
そのとき、自分はどんな気持ちで思い出すのだろう。
まだ分からない。
ただ今は──。
昨日の続きのような静かな夜の中で、葵は穏やかに眠りについた。
葵はいつもより遅く目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光を眺めながら、昨日のことを思い出す。
海。
砂浜。
波の音。
悠真と並んで歩いた時間。
そして、帰りの電車。
目を閉じると、まだ昨日の景色が浮かんでくる。
「楽しかったな……」
葵は小さく呟いた。
スマートフォンを見る。
悠真からメッセージが届いていた。
『昨日はありがとう』
葵は少し笑う。
『こちらこそ。楽しかった』
送信して、しばらく画面を眺める。
昨日の帰り道。
悠真は何度も笑っていた。
昔と同じように。
でも、どこか違った。
その違いが何なのか、葵にはまだ分からない。
午後。
葵は一人で買い物に出かけた。
昨日の海で撮った写真を整理しようと思ったけれど、そもそも写真をほとんど撮っていないことに気づく。
昔なら、何枚も撮っていた。
二人の写真。
海の写真。
食事の写真。
思い出を残すために。
でも昨日は、スマートフォンをほとんど触らなかった。
悠真と話していた。
海を見ていた。
笑っていた。
それだけだった。
それで十分だった。
街を歩いていると、ショーウインドウに夏物の服が並んでいる。
葵は足を止めた。
淡い色のワンピースが目に入る。
「かわいい」
思わず呟く。
以前なら、悠真が好きそうかどうかを考えただろう。
でも今日は違う。
自分が好きかどうか。
それだけを考えて店に入った。
一方、悠真も自宅で昨日のことを思い返していた。
海から帰ってきてから、何度も同じ場面を思い出している。
葵が笑っていた。
以前より、自然に笑うようになった気がする。
仕事の話をしていたときも。
海を見ていたときも。
食事をしていたときも。
何かに追われるようなところがなくなっていた。
悠真は、そんな葵を見て安心した。
そして同時に、胸の奥が少し痛んだ。
自分がいなくても、葵はちゃんと自分の時間を生きられる。
それは嬉しいことのはずだった。
なのに。
なぜか、寂しかった。
悠真はスマートフォンを手に取る。
葵に電話しようかと思った。
けれど、やめた。
昨日、一日中一緒にいた。
今日は葵にも葵の時間がある。
そう思って、スマートフォンを置いた。
夜。
葵のスマートフォンが震えた。
悠真からだった。
『今日、何してた?』
葵は返信する。
『買い物してた。昨日見た服に似たのがあって』
『昨日の服?』
『違うよ。昨日は見てない』
『そうか』
そこで会話が途切れる。
葵は少し考えた。
以前なら、自分から話題を探した。
でも今日は、そのままスマートフォンを置いた。
少しして、また震える。
『葵』
『ん?』
『昨日、楽しかった?』
その質問に、葵は少し驚いた。
昨日、何度も楽しかったと言った。
それなのに。
わざわざ聞くということは、悠真の中にも何か残っているのだろうか。
『楽しかったよ』
葵は返信した。
『すごく』
しばらくして、
『俺も』
と返ってくる。
それだけ。
それなのに、葵には分かった。
悠真も、昨日のことを何度も思い出している。
同じ景色を見た。
同じ海を見た。
同じ時間を過ごした。
それでも、二人が同じ未来を見ているとは限らない。
そのことに気づいた瞬間、葵の胸に小さな不安が生まれた。
けれど、葵はその不安から逃げなかった。
まだ答えを出す必要はない。
昨日が楽しかった。
また会いたいと思った。
それだけは確かなことだから。
夜が深くなった頃。
葵はベッドに入り、天井を見つめていた。
昨日の海を思い出す。
そして、四年前の自分を思い出す。
あの頃は、未来がずっと続くと思っていた。
今は、未来が分からない。
けれど。
分からないからこそ、自分で選んでいくしかないのだと思う。
悠真がどうするのか。
自分がどうするのか。
二人がこれからどんな道を歩くのか。
まだ、何も決まっていない。
それでも。
昨日、海へ行ったことは間違いではなかった。
葵は目を閉じる。
楽しかったという気持ちを、そのまま胸にしまう。
いつか、この日も思い出になるのだろう。
そのとき、自分はどんな気持ちで思い出すのだろう。
まだ分からない。
ただ今は──。
昨日の続きのような静かな夜の中で、葵は穏やかに眠りについた。



