月曜日の朝。
葵は、いつもより少し早く目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光を眺めながら、しばらく布団の中にいた。
昨日は何もしなかった。
仕事のメールも、必要以上には確認しなかった。
一人でパンを買いに行って、コーヒーを飲んで、本を読んだ。
以前の自分なら、そんな休日を「何もしていない」と思っただろう。
けれど今は違った。
何もしない時間も、自分の時間なのだと思えるようになっていた。
葵はベッドから起き上がり、スマートフォンを手に取る。
悠真からメッセージが届いていた。
『昨日はゆっくりできた?』
葵は少し笑って、返信する。
『うん。久しぶりに何もしなかった』
少しして、悠真から返事が届いた。
『葵が?』
『失礼じゃない?』
『だって、昔から休みの日も何かしてただろ』
その言葉に、葵は思わず笑った。
確かにそうだった。
仕事の資料を整理したり、資格の勉強をしたり、次の予定を考えたり。
何も予定がない日でさえ、何かを「しなければ」と思っていた。
『最近は、何もしないのも悪くないって思えるようになった』
そう送ると、悠真から、
『いいと思う』
と返ってきた。
短い言葉だった。
けれど、その一言が不思議と嬉しかった。
スマートフォンを置き、葵は仕事へ向かう準備を始めた。
駅まで歩く。
月曜日の朝の街は、いつも通り慌ただしい。
信号を待つ人。
急ぎ足で駅へ向かう人。
コンビニの前でコーヒーを飲む会社員。
そんな当たり前の光景を眺めながら、葵はふと思った。
以前は、この景色を見ても何も感じなかった。
会社へ行って。
仕事をして。
帰って。
悠真に連絡して。
眠る。
それが自分の生活だった。
けれど今は、少しだけ違う。
自分の生活の中に、仕事も悠真もいる。
でも、それだけではない。
そんな感覚が、少しずつ分かってきていた。
会社に着く。
「おはよう、高橋さん」
「おはようございます」
いつもの挨拶を交わし、デスクに座る。
パソコンを立ち上げると、メールがいくつか届いていた。
その中には、週末に送られてきた確認依頼もある。
葵は一つずつ目を通していく。
以前なら、朝一番からすべて片づけようとしていた。
けれど今日は、優先順位をつける。
急ぎのものから処理する。
今日中でなくてもいいものは、午後に回す。
昼休みになったら、ちゃんと休む。
当たり前のことだった。
それなのに、以前の葵にはできていなかった。
昼休み。
同僚からランチに誘われた。
「高橋さん、今日一緒に行かない?」
「行きます」
葵は迷わず答えた。
仕事のメールを確認しようとしていた指を止める。
そして、スマートフォンを伏せた。
昼食を終えて会社へ戻る途中、同僚がふと尋ねた。
「そういえば、高橋さんって最近、少し雰囲気変わった?」
「え?」
「なんか、前よりゆっくりしてる感じ」
葵は少し考える。
「そうかな」
「うん。前はもっと、いつも急いでる感じだったから」
その言葉に、葵は苦笑した。
「……確かに、そうだったかも」
午後の仕事を終え、会社を出る。
空は少し赤く染まっていた。
駅へ向かう途中、スマートフォンが震える。
悠真からだった。
『今週末、どうする?』
葵は立ち止まる。
少し考えてから返信した。
『海、行かない?』
送信する。
しばらくして、
『いいよ』
と返ってきた。
葵は続けて、
『今度はちゃんと日を決めよう』
と送る。
すぐには返信が来なかった。
けれど、数分後。
『土曜日なら大丈夫』
その文字を見て、葵は小さく笑った。
『じゃあ土曜日』
『うん』
たったそれだけの約束だった。
けれど、以前とは少し違う。
昔の二人は、何度も「いつか」と言った。
いつか一緒に暮らそう。
いつか旅行に行こう。
いつか海へ行こう。
未来の話をすることは、幸せだった。
けれど、その「いつか」は、いつまで経っても来なかった。
今度は違う。
日にちを決めた。
場所を決めた。
ちゃんと、その日を待つ。
葵は歩きながら、ふと空を見上げた。
まだ月曜日。
土曜日までは、少し時間がある。
それでも、不思議と待ち遠しかった。
そして思う。
未来は、ただ待っているだけでは来ない。
自分たちで一つずつ、選んでいくものなのかもしれない。
葵はスマートフォンを鞄にしまった。
そして、駅へ向かって歩き出した。
今週は、ちゃんと仕事をする。
そして土曜日には、悠真と海へ行く。
その先に何があるのかは、まだ分からない。
けれど今は、「いつか」ではなく「土曜日」と言えることが、少しだけ嬉しかった。
葵は、いつもより少し早く目を覚ました。
カーテンの隙間から差し込む光を眺めながら、しばらく布団の中にいた。
昨日は何もしなかった。
仕事のメールも、必要以上には確認しなかった。
一人でパンを買いに行って、コーヒーを飲んで、本を読んだ。
以前の自分なら、そんな休日を「何もしていない」と思っただろう。
けれど今は違った。
何もしない時間も、自分の時間なのだと思えるようになっていた。
葵はベッドから起き上がり、スマートフォンを手に取る。
悠真からメッセージが届いていた。
『昨日はゆっくりできた?』
葵は少し笑って、返信する。
『うん。久しぶりに何もしなかった』
少しして、悠真から返事が届いた。
『葵が?』
『失礼じゃない?』
『だって、昔から休みの日も何かしてただろ』
その言葉に、葵は思わず笑った。
確かにそうだった。
仕事の資料を整理したり、資格の勉強をしたり、次の予定を考えたり。
何も予定がない日でさえ、何かを「しなければ」と思っていた。
『最近は、何もしないのも悪くないって思えるようになった』
そう送ると、悠真から、
『いいと思う』
と返ってきた。
短い言葉だった。
けれど、その一言が不思議と嬉しかった。
スマートフォンを置き、葵は仕事へ向かう準備を始めた。
駅まで歩く。
月曜日の朝の街は、いつも通り慌ただしい。
信号を待つ人。
急ぎ足で駅へ向かう人。
コンビニの前でコーヒーを飲む会社員。
そんな当たり前の光景を眺めながら、葵はふと思った。
以前は、この景色を見ても何も感じなかった。
会社へ行って。
仕事をして。
帰って。
悠真に連絡して。
眠る。
それが自分の生活だった。
けれど今は、少しだけ違う。
自分の生活の中に、仕事も悠真もいる。
でも、それだけではない。
そんな感覚が、少しずつ分かってきていた。
会社に着く。
「おはよう、高橋さん」
「おはようございます」
いつもの挨拶を交わし、デスクに座る。
パソコンを立ち上げると、メールがいくつか届いていた。
その中には、週末に送られてきた確認依頼もある。
葵は一つずつ目を通していく。
以前なら、朝一番からすべて片づけようとしていた。
けれど今日は、優先順位をつける。
急ぎのものから処理する。
今日中でなくてもいいものは、午後に回す。
昼休みになったら、ちゃんと休む。
当たり前のことだった。
それなのに、以前の葵にはできていなかった。
昼休み。
同僚からランチに誘われた。
「高橋さん、今日一緒に行かない?」
「行きます」
葵は迷わず答えた。
仕事のメールを確認しようとしていた指を止める。
そして、スマートフォンを伏せた。
昼食を終えて会社へ戻る途中、同僚がふと尋ねた。
「そういえば、高橋さんって最近、少し雰囲気変わった?」
「え?」
「なんか、前よりゆっくりしてる感じ」
葵は少し考える。
「そうかな」
「うん。前はもっと、いつも急いでる感じだったから」
その言葉に、葵は苦笑した。
「……確かに、そうだったかも」
午後の仕事を終え、会社を出る。
空は少し赤く染まっていた。
駅へ向かう途中、スマートフォンが震える。
悠真からだった。
『今週末、どうする?』
葵は立ち止まる。
少し考えてから返信した。
『海、行かない?』
送信する。
しばらくして、
『いいよ』
と返ってきた。
葵は続けて、
『今度はちゃんと日を決めよう』
と送る。
すぐには返信が来なかった。
けれど、数分後。
『土曜日なら大丈夫』
その文字を見て、葵は小さく笑った。
『じゃあ土曜日』
『うん』
たったそれだけの約束だった。
けれど、以前とは少し違う。
昔の二人は、何度も「いつか」と言った。
いつか一緒に暮らそう。
いつか旅行に行こう。
いつか海へ行こう。
未来の話をすることは、幸せだった。
けれど、その「いつか」は、いつまで経っても来なかった。
今度は違う。
日にちを決めた。
場所を決めた。
ちゃんと、その日を待つ。
葵は歩きながら、ふと空を見上げた。
まだ月曜日。
土曜日までは、少し時間がある。
それでも、不思議と待ち遠しかった。
そして思う。
未来は、ただ待っているだけでは来ない。
自分たちで一つずつ、選んでいくものなのかもしれない。
葵はスマートフォンを鞄にしまった。
そして、駅へ向かって歩き出した。
今週は、ちゃんと仕事をする。
そして土曜日には、悠真と海へ行く。
その先に何があるのかは、まだ分からない。
けれど今は、「いつか」ではなく「土曜日」と言えることが、少しだけ嬉しかった。



