諦めた。その言葉を聞いて、楓の動きがほんの僅かだけぎこちなくなったことに、ゆあは気づいていない。普段ならこのまま完璧な執事業務に戻るだけのはずだが、今日の楓はどこか落ち着きがない。ティーポットの蓋を開けては閉め、閉じては開ける。
紅茶を注ぎながら、背中越しに。
「……本気で言ってます?」
口調が崩れている。使用人たちの耳がないと判断しているのか、敬語と素の混じった妙なトーンだった。
「いや、別に。お嬢様がそうしたいなら好きにすればいいけど。」
カップをソーサーに置く音が、さっきより少しだけ乱暴だった。
「うん…迷惑なら、仕方ないじゃん…」
ゆあが苺をひとつつまみ、もそもそと口に運ぶ。いつもなら楓に「あーん」とせがんで軽くあしらわれるところだが、今日のゆあにはそんな元気もないらしい。
ワゴンの取っ手を握る指に、不自然な力が入っている。楓は黙ったまま、ゆあの横顔を見ていた。
「 ……。」
沈黙が重い。銀のカトラリーが皿に当たる小さな音だけがダイニングに響いている。楓は何か言いかけて、口を閉じた。
おかしい。普段ならここで「分かっていただけましたか」と涼しい顔で話を終わらせるはずの楓が、明らかに言葉を失っている。紅茶のポットを持ったまま、注ぐ先を見失い、カップを見つめて固まっている姿は、この執着離れした男にしては異例中の異例だった。
紅茶を注ぎながら、背中越しに。
「……本気で言ってます?」
口調が崩れている。使用人たちの耳がないと判断しているのか、敬語と素の混じった妙なトーンだった。
「いや、別に。お嬢様がそうしたいなら好きにすればいいけど。」
カップをソーサーに置く音が、さっきより少しだけ乱暴だった。
「うん…迷惑なら、仕方ないじゃん…」
ゆあが苺をひとつつまみ、もそもそと口に運ぶ。いつもなら楓に「あーん」とせがんで軽くあしらわれるところだが、今日のゆあにはそんな元気もないらしい。
ワゴンの取っ手を握る指に、不自然な力が入っている。楓は黙ったまま、ゆあの横顔を見ていた。
「 ……。」
沈黙が重い。銀のカトラリーが皿に当たる小さな音だけがダイニングに響いている。楓は何か言いかけて、口を閉じた。
おかしい。普段ならここで「分かっていただけましたか」と涼しい顔で話を終わらせるはずの楓が、明らかに言葉を失っている。紅茶のポットを持ったまま、注ぐ先を見失い、カップを見つめて固まっている姿は、この執着離れした男にしては異例中の異例だった。



