20歳で夜の世界に入った。
最初は、こんなに自分を見失うなんて思ってなかった。
右も左も分からないまま、ドレスを着て、グラスを片手に、
その日初めて会った人の隣に座る。
私が笑えば笑ってくれるし、連絡をすれば会いに来てくれる。
頑張った分だけ数字になって、働いた分だけお金になる。
今まで知らなかった世界だった。
最初の頃は、肩に手を置かれることすら嫌だった。
知らない男の人に触れられるのが嫌で、近い距離で話されるだけで体が固まった。
飲みたくないお酒を飲むのも嫌だったし、楽しくない話に笑うことにも慣れていなかった。
でも不思議なもので、
一個「まあいいか」と許すと、次も大丈夫になる。
昨日まで嫌だったことが、今日はそれほど嫌じゃなくなる。
そしていつの間にか、
「これくらい普通」になっていた。
強くなったんだと思っていた。
夜の世界に慣れたんだと思っていた。
今振り返ると、多分違う。
慣れたんじゃない。
自分の中にあったストッパーが少しずつ壊れていっただけ。
触れられても何も思わない。
飲みたくないお酒も笑って飲める。
どれだけ気持ち悪くても、席に戻れば笑える。
トイレで吐いて、胃液の味まで知って、
それでも鏡に映る私は、「大丈夫」ってまた席に戻る。
笑顔を覚えるほど、本当の笑い方が分からなくなっていった。
気づいた頃には、
私はずっと「仮面」をかぶっていた。
でも一番怖かったのは、
その仮面を外した時に、
そこにいるはずの「本当の私」が分からなくなっていたことだった。
最初に失ったのは、お金でも時間でもなかった
人を信じる心だった。
お客さんにも裏切られた。
友達にも裏切られた。
信じた人が離れていくたびに、
「結局、人なんていつかいなくなる」
と思うようになった。
どれだけ「好き」と言われても、
どれだけ「味方だよ」と言われても、
心のどこかで、
「この人もいつかいなくなるんでしょ」
と思ってしまう。
だから最初から全部は信じない。
期待しなければ傷つかない。
そうやって自分を守っているつもりだった。
でも、
気づけば本当に、隣に誰もいなくなっていた。
味方がいない。
誰にも本当の自分を見せられない。
毎日たくさんの人と話しているのに、ずっと孤独だった。
そんな中で、唯一信じられたものがお金だった。
働けば入ってくる。
突然、「もう無理」と言っていなくならない。
今日頑張った分は、数字になって返ってくる。
お金だけは私を裏切らない。
本気でそう思うようになった。
だから働いた。
寂しくても働いた。
苦しくても働いた。
何も考えたくない日ほど働いた。
そして口座にお金が入ると、ほんの少しだけ安心した。
でも、その安心は長くは続かなかった。
働く。
お金が入る。
使う。
また働く。
お金は増えているはずなのに、心の中はずっと空っぽだった。
どれだけお金があっても、家に帰れば一人だった。
玄関のドアを閉めた瞬間、店で笑っていた自分が急にいなくなる。
静かな部屋で我に返って、
「私、何やってるんだろう」
虚しくなる。
朝まで泣いた日もたくさんあった。
そこで初めて気づいた。
私が本当に欲しかったものは、お金で買えるものじゃなかった。
たぶん私は、
愛されたかった。
「もう大丈夫だよ」
って言ってほしかった。
「よく頑張ったね」
って誰かに抱きしめてもらいたかった。
ずっとそんな人を探していたんだと思う。
それなのに、
人を信じることが怖くなった私は、自分から人を遠ざける。
愛してほしいのに、近づかれると怖い。
一人は嫌なのに、一人になるような選択をする。
欲しくてたまらないものを、自分から遠ざけていた。
正しい言葉ほど、聞きたくなくなった
家族や大学の友達から何か言われても、
「私の何がわかるの?」
と思っていた。
正しいことを言われているのは、自分でも分かっていた。
だからこそ耳が痛かった。
「私の苦しみは私にしか分からない」
「分かったふりしないでよ」
そんな気持ちばかりが大きくなって、
心配してくれる人から自分で距離を取った。
今思えば、
否定したかったのではなく、引き戻そうとしてくれていた人もいたのかもしれない。
当時の私には、その言葉を受け取る余裕がなかった。
それでも、
夜の世界だけが、私を否定しなかった。
笑えばいい。
飲めばいい。
売り上げを作ればいい。
キャバクラが、私の居場所だった。
苦しい場所なのに、離れられなかった。
辞めたら、
私には何も残らない気がしたから。
好きだから辞めれなかった、だけじゃない。
夜職をしていない自分に、価値があるのか分からなくなっていた。
お金の感覚も壊れていった
もともと、私はお金に極端な不自由を感じて育ったわけではない。
だから夜職を始めた瞬間に、突然贅沢を知ったわけでもなかった。
それでも、感覚は確実にバグっていった。
移動はタクシーが当たり前。
ご飯を作るよりウーバーイーツ。
欲しいと思えば、値段を見ずに買う。
本当はいらないものまで買った。
私は、そこまで物欲が強い方ではない。
それなのに、高いジュエリー、ブランドのバッグ、ブランドの服に靴、
身につけるものはすべて高級品と決めていた。
今なら少しわかる。
欲しかったのはバッグでもジュエリーでもなかった。
自分の価値を証明できるものが欲しかった。
自分が何者なのか分からない。
自分に自信がない。
だから、
高いものを身につけている私。
高いものを買ってもらえる私。
これだけ稼いでいる私。
そんな分かりやすい数字や値札を使って、自分の価値を確認していた。
「本当の私」が分からないのに、また何かで埋めようとする。
いくら使っても満たされなかったのは、当たり前だった。
欲しかったものを、一度も買っていなかったから。
一番失ったものは、「嫌だ」と言える自分だったのかもしれない
夜職を始めたばかりの頃、
嫌なものは嫌だった。
お酒を飲みたくない日は飲まなかった。
傷つくことがあれば、ちゃんと傷ついていた。
でも一つずつ、
「大丈夫」に変えていった。
これくらい大丈夫。
まだ大丈夫。
みんなやってるから大丈夫。
お金をもらってるんだから大丈夫。
そうやって自分の気持ちに蓋をし続けた結果、
本当に何でも大丈夫になってしまった。
それが怖かった。
「強くなった」と「何も感じなくなった」は全然違う。
自分が買われているように感じる日もあった。
「これは仕事だから」
「私は対価をもらっているだけだから」
言い聞かせれば、また何も感じないふりができた。
そうやって仮面をかぶり続けていたら、
いつの間にか仮面をかぶっている自分の方が普通になった。
本当の私は何が好きで、
何が嫌で、
誰を信じたくて、
何をしていると幸せなのか、分からなくなった。
「幸せって何?」
本気でそう思うようになった。
どうやって笑っていたのかすら、思い出せなくなった。
それでも、夜職だけを悪者にはしたくない
夜職を始めなければ全部幸せだった、とは思わない。
お金も稼いだ。
普通なら出会わなかった人とも出会えた。
知らなかった世界を知った。
強くなった部分だってある。
だから私は、
夜の世界そのものを否定したいわけじゃない。
ただ、
何かを得るたびに自分の中から何かが少しずつなくなっていることに、
当時の私は気づかなかった。
お金が増える。
感覚がなくなる。
寂しくなる。
愛が欲しくなる。
でも人を信じられない。
だからまた働く。
そして、お金だけは増えていく。
ずっとその繰り返しだった。
キャバクラは、私を苦しめた場所でもあった。
同時に、
私が逃げ込める唯一の居場所でもあった。
だから辞められなかった。
辞めたら何もなくなる気がした。
仮面を外したら、自分まで消えてしまう気がした。
たぶん私はずっと、
誰かに仮面を剥がしてほしかったんだと思う。
その下にいる自分を見つけて、
「もう大丈夫だよ」
「よく頑張ったね」
って言ってほしかった。
お金では買えないものを探して、
お金だけは裏切らないと言い聞かせながら、
今日もまた、夜の世界に戻る。
『20歳からの3年間で失ったもの』は、たくさんある。
人を信じる心。
正常なお金の感覚。
嫌なことを「嫌だ」と言える感覚。
何も考えずに笑えること。
自分の気持ちをそのまま感じること。
そして、
「何者でもない私にも価値がある」と思える心。
でも一番怖いのは、
何を失ったのかさえ分からなくなることだった。
だから今、こうして書いている。
あの頃の私が何を感じていたのか、何を嫌だと思ったのか。
一つずつ拾い直すために、
仮面の下に置いてきた自分を、もう一度ちゃんと見つけるために。
最初は、こんなに自分を見失うなんて思ってなかった。
右も左も分からないまま、ドレスを着て、グラスを片手に、
その日初めて会った人の隣に座る。
私が笑えば笑ってくれるし、連絡をすれば会いに来てくれる。
頑張った分だけ数字になって、働いた分だけお金になる。
今まで知らなかった世界だった。
最初の頃は、肩に手を置かれることすら嫌だった。
知らない男の人に触れられるのが嫌で、近い距離で話されるだけで体が固まった。
飲みたくないお酒を飲むのも嫌だったし、楽しくない話に笑うことにも慣れていなかった。
でも不思議なもので、
一個「まあいいか」と許すと、次も大丈夫になる。
昨日まで嫌だったことが、今日はそれほど嫌じゃなくなる。
そしていつの間にか、
「これくらい普通」になっていた。
強くなったんだと思っていた。
夜の世界に慣れたんだと思っていた。
今振り返ると、多分違う。
慣れたんじゃない。
自分の中にあったストッパーが少しずつ壊れていっただけ。
触れられても何も思わない。
飲みたくないお酒も笑って飲める。
どれだけ気持ち悪くても、席に戻れば笑える。
トイレで吐いて、胃液の味まで知って、
それでも鏡に映る私は、「大丈夫」ってまた席に戻る。
笑顔を覚えるほど、本当の笑い方が分からなくなっていった。
気づいた頃には、
私はずっと「仮面」をかぶっていた。
でも一番怖かったのは、
その仮面を外した時に、
そこにいるはずの「本当の私」が分からなくなっていたことだった。
最初に失ったのは、お金でも時間でもなかった
人を信じる心だった。
お客さんにも裏切られた。
友達にも裏切られた。
信じた人が離れていくたびに、
「結局、人なんていつかいなくなる」
と思うようになった。
どれだけ「好き」と言われても、
どれだけ「味方だよ」と言われても、
心のどこかで、
「この人もいつかいなくなるんでしょ」
と思ってしまう。
だから最初から全部は信じない。
期待しなければ傷つかない。
そうやって自分を守っているつもりだった。
でも、
気づけば本当に、隣に誰もいなくなっていた。
味方がいない。
誰にも本当の自分を見せられない。
毎日たくさんの人と話しているのに、ずっと孤独だった。
そんな中で、唯一信じられたものがお金だった。
働けば入ってくる。
突然、「もう無理」と言っていなくならない。
今日頑張った分は、数字になって返ってくる。
お金だけは私を裏切らない。
本気でそう思うようになった。
だから働いた。
寂しくても働いた。
苦しくても働いた。
何も考えたくない日ほど働いた。
そして口座にお金が入ると、ほんの少しだけ安心した。
でも、その安心は長くは続かなかった。
働く。
お金が入る。
使う。
また働く。
お金は増えているはずなのに、心の中はずっと空っぽだった。
どれだけお金があっても、家に帰れば一人だった。
玄関のドアを閉めた瞬間、店で笑っていた自分が急にいなくなる。
静かな部屋で我に返って、
「私、何やってるんだろう」
虚しくなる。
朝まで泣いた日もたくさんあった。
そこで初めて気づいた。
私が本当に欲しかったものは、お金で買えるものじゃなかった。
たぶん私は、
愛されたかった。
「もう大丈夫だよ」
って言ってほしかった。
「よく頑張ったね」
って誰かに抱きしめてもらいたかった。
ずっとそんな人を探していたんだと思う。
それなのに、
人を信じることが怖くなった私は、自分から人を遠ざける。
愛してほしいのに、近づかれると怖い。
一人は嫌なのに、一人になるような選択をする。
欲しくてたまらないものを、自分から遠ざけていた。
正しい言葉ほど、聞きたくなくなった
家族や大学の友達から何か言われても、
「私の何がわかるの?」
と思っていた。
正しいことを言われているのは、自分でも分かっていた。
だからこそ耳が痛かった。
「私の苦しみは私にしか分からない」
「分かったふりしないでよ」
そんな気持ちばかりが大きくなって、
心配してくれる人から自分で距離を取った。
今思えば、
否定したかったのではなく、引き戻そうとしてくれていた人もいたのかもしれない。
当時の私には、その言葉を受け取る余裕がなかった。
それでも、
夜の世界だけが、私を否定しなかった。
笑えばいい。
飲めばいい。
売り上げを作ればいい。
キャバクラが、私の居場所だった。
苦しい場所なのに、離れられなかった。
辞めたら、
私には何も残らない気がしたから。
好きだから辞めれなかった、だけじゃない。
夜職をしていない自分に、価値があるのか分からなくなっていた。
お金の感覚も壊れていった
もともと、私はお金に極端な不自由を感じて育ったわけではない。
だから夜職を始めた瞬間に、突然贅沢を知ったわけでもなかった。
それでも、感覚は確実にバグっていった。
移動はタクシーが当たり前。
ご飯を作るよりウーバーイーツ。
欲しいと思えば、値段を見ずに買う。
本当はいらないものまで買った。
私は、そこまで物欲が強い方ではない。
それなのに、高いジュエリー、ブランドのバッグ、ブランドの服に靴、
身につけるものはすべて高級品と決めていた。
今なら少しわかる。
欲しかったのはバッグでもジュエリーでもなかった。
自分の価値を証明できるものが欲しかった。
自分が何者なのか分からない。
自分に自信がない。
だから、
高いものを身につけている私。
高いものを買ってもらえる私。
これだけ稼いでいる私。
そんな分かりやすい数字や値札を使って、自分の価値を確認していた。
「本当の私」が分からないのに、また何かで埋めようとする。
いくら使っても満たされなかったのは、当たり前だった。
欲しかったものを、一度も買っていなかったから。
一番失ったものは、「嫌だ」と言える自分だったのかもしれない
夜職を始めたばかりの頃、
嫌なものは嫌だった。
お酒を飲みたくない日は飲まなかった。
傷つくことがあれば、ちゃんと傷ついていた。
でも一つずつ、
「大丈夫」に変えていった。
これくらい大丈夫。
まだ大丈夫。
みんなやってるから大丈夫。
お金をもらってるんだから大丈夫。
そうやって自分の気持ちに蓋をし続けた結果、
本当に何でも大丈夫になってしまった。
それが怖かった。
「強くなった」と「何も感じなくなった」は全然違う。
自分が買われているように感じる日もあった。
「これは仕事だから」
「私は対価をもらっているだけだから」
言い聞かせれば、また何も感じないふりができた。
そうやって仮面をかぶり続けていたら、
いつの間にか仮面をかぶっている自分の方が普通になった。
本当の私は何が好きで、
何が嫌で、
誰を信じたくて、
何をしていると幸せなのか、分からなくなった。
「幸せって何?」
本気でそう思うようになった。
どうやって笑っていたのかすら、思い出せなくなった。
それでも、夜職だけを悪者にはしたくない
夜職を始めなければ全部幸せだった、とは思わない。
お金も稼いだ。
普通なら出会わなかった人とも出会えた。
知らなかった世界を知った。
強くなった部分だってある。
だから私は、
夜の世界そのものを否定したいわけじゃない。
ただ、
何かを得るたびに自分の中から何かが少しずつなくなっていることに、
当時の私は気づかなかった。
お金が増える。
感覚がなくなる。
寂しくなる。
愛が欲しくなる。
でも人を信じられない。
だからまた働く。
そして、お金だけは増えていく。
ずっとその繰り返しだった。
キャバクラは、私を苦しめた場所でもあった。
同時に、
私が逃げ込める唯一の居場所でもあった。
だから辞められなかった。
辞めたら何もなくなる気がした。
仮面を外したら、自分まで消えてしまう気がした。
たぶん私はずっと、
誰かに仮面を剥がしてほしかったんだと思う。
その下にいる自分を見つけて、
「もう大丈夫だよ」
「よく頑張ったね」
って言ってほしかった。
お金では買えないものを探して、
お金だけは裏切らないと言い聞かせながら、
今日もまた、夜の世界に戻る。
『20歳からの3年間で失ったもの』は、たくさんある。
人を信じる心。
正常なお金の感覚。
嫌なことを「嫌だ」と言える感覚。
何も考えずに笑えること。
自分の気持ちをそのまま感じること。
そして、
「何者でもない私にも価値がある」と思える心。
でも一番怖いのは、
何を失ったのかさえ分からなくなることだった。
だから今、こうして書いている。
あの頃の私が何を感じていたのか、何を嫌だと思ったのか。
一つずつ拾い直すために、
仮面の下に置いてきた自分を、もう一度ちゃんと見つけるために。
