月影に咲く、一輪の華

しばらくして、ようやく呼吸が落ち着いてきた。

星羅「……はぁ……」

まだ胸は苦しい。

でも、さっきみたいに息ができないほどじゃない。

夜凪「……少しマシになったか」

星羅「……うん」

夜凪「そうか」

それだけ言って、夜凪は私を抱きしめたまま動かなかった。

私は夜凪の制服を握ったまま、ぼんやりとその胸元を見る。

星羅「……夜凪」

夜凪「何」

星羅「女の子嫌いなのに……」

夜凪「……」

星羅「私のこと、抱きしめてるね」

夜凪「…………」

夜凪の動きが、ほんの少し止まる。

星羅「嫌じゃないの?」

夜凪「……嫌なら、とっくに離してる」

星羅「……そっか」

その言葉が、なんだか嬉しかった。

星羅「ありがとう」

夜凪「……礼はいらねぇ」

星羅「でも、助けてくれたから」

夜凪「……」

星羅「私、さっき本当に怖かった」

夜凪「……ああ」

星羅「星夜の前では大丈夫だったのに……」

夜凪「……」

星羅「星夜がいると、私がしっかりしなきゃって思っちゃうんだ」

夜凪「……それで限界まで我慢したのか」

星羅「……たぶん」

少しだけ笑う。

星羅「情けないよね」

夜凪「……別に」

星羅「でも私、強くなったから大丈夫だと思ってた」

夜凪「強い奴でも怖いもんは怖ぇだろ」

星羅「……」

夜凪「強いからって、何も感じなくなるわけじゃねぇ」

その言葉が、胸にすっと入ってきた。

私はしばらく黙っていた。

そして、小さく頷く。

星羅「……うん」

夜凪「もう少しここにいるか?」

星羅「……いいの?」

夜凪「ああ」

星羅「じゃあ……もうちょっとだけ」

夜凪「……分かった」

再び静かな時間が流れる。

けれど――。

その頃、屋上へ向かっていた星夜は、階段の途中で足を止めていた。

星夜「…………」

何か聞こえた気がした。

風に混じった、かすかな声。

――星羅の声。

星夜「……姉ちゃん?」

嫌な予感がした。

そのまま階段を駆け上がる。

そして屋上の扉を開けた瞬間――。

星夜「…………」

目に入った光景に、星夜の足が止まった。

そこには――。

夜凪に抱きしめられている星羅がいた。