月影に咲く、一輪の華

旧校舎を出ると、私はみんなの方を振り返った。

星羅「……なんか、ちょっと外の空気吸いたい」

來夢「大丈夫か?」

星羅「うん!全然大丈夫!」

笑ってみせる。

星夜「姉ちゃん」

星羅「ん?」

星夜「無理すんなよ」

星羅「してないって!」

いつものように笑って、手を振る。

星羅「じゃあ、先に屋上行ってるね!」

星夜「ああ」

私はそのまま、ひとりで歩き出した。

――大丈夫。

星夜の前では、ちゃんと笑えた。

怖くなんかない。

もう終わったこと。

そう思いながら階段を上る。

屋上の扉を開けると、誰もいない。

風が頬を撫でた。

星羅「……ふぅ」

少しだけ、落ち着いた気がした。

でも――。

目を閉じた瞬間。

頭の中に、さっきの旧校舎が浮かんだ。

古びた壁。

薄暗い部屋。

そして、床に落ちていた鎖。

――ジャラ……。

星羅「……っ」

胸が苦しくなる。

違う。

もう終わった。

私は大丈夫。

星羅「……大丈夫……」

自分に言い聞かせながら、屋上の隅まで歩いていく。

誰にも見られない場所。

壁に背中を預け、そのまま座り込む。

星羅「…………」

膝を抱える。

星夜の前では平気な顔ができた。

笑うこともできた。

「大丈夫」って言うこともできた。

でも――。

本当は、全然大丈夫じゃなかった。

星羅「……怖い……」

小さく呟いた瞬間、呼吸が乱れた。

息を吸っても、うまく入ってこない。

星羅「……っ、は……」

苦しい。

胸が締めつけられる。

もう一度、息を吸おうとする。

けれど、できない。

星羅「はっ……はぁ……っ」

手が震える。

視界がぼやけていく。

――鎖。

――閉じた扉。

――動けない身体。

――泣いている星夜。

『姉ちゃん……助けて……』

星羅「……やめて……」

頭を抱える。

星羅「もう……やめて……っ」

呼吸がどんどん速くなる。