月影に咲く、一輪の華


星羅「……執着?」

その言葉に、私は少しだけ眉を寄せた。

星羅「違うよ」

男「何が?」

星羅「大切なの」

迷いなく答える。

星羅「星夜は私の一番大切な弟だから」

男「……へぇ」

その瞬間。

男が突然、星夜へ向かって駆け出した。

星羅「――星夜!」

星夜「……っ!」

男の拳が振り下ろされる。

けれど、その拳が星夜に届くより先に――。

私は星夜の前へ滑り込んだ。

ガッ!!

腕で拳を受け止める。

星夜「姉ちゃん!」

星羅「大丈夫!」

そのまま相手の腕を掴む。

男「なっ……!」

星羅「……言ったよね?」

ぐっと腕を捻る。

男「ぐっ……!」

星羅「星夜には触らないでって」

そのまま男を投げ飛ばす。

ドンッ!!

男の身体が床を滑った。

一瞬、静まり返る。

豹牙「……やっぱすげぇな」

來夢「相変わらず容赦ねぇ……」

黒羽「……」

星夜は私の後ろに立ったまま、拳を握っている。

星羅「星夜、大丈夫?」

星夜「……ああ」

星羅「よかった」

私はいつもの笑顔に戻る。

その瞬間だった。

倒れていた男が、ゆっくり身体を起こす。

男「…………」

星羅「まだやる?」

男は答えない。

ただ、私をじっと見ている。

さっきまでの苛立ちとは違う。

驚き。

興味。

そして――。

男「……お前」

星羅「ん?」

男「本当に……星夜の姉ちゃんなんだな」

星羅「うん」

男「……面白ぇ」

口元が少し上がる。

男「気に入った」

星夜「……は?」

黒羽「おい」

男「こんな女、初めて見た」

男は立ち上がりながら、私から目を逸らさない。

男「強ぇくせに、弟の前じゃ普通の顔してやがる」

星羅「……?」

男「もっと知りたくなった」

星夜「…………」

星夜の目が一気に険しくなる。

男はそんな星夜を見て、楽しそうに笑った。

男「安心しろよ。今日はもう帰る」

そして最後に、もう一度私を見る。

男「――また会おうぜ、星羅」

その呼び方に、星夜の表情が変わった。

星羅「……また?」

男「次は、ちゃんと話そうや」

男たちは桜凛の生徒を解放すると、そのまま旧校舎を出ていった。

残された私たちは、しばらく誰も動かなかった。

來夢「……星羅ちゃん」

星羅「ん?」

來夢「なんか……また厄介なのに目ぇつけられたな」

星羅「そうなの?」

黒羽「……ああ」

星夜「…………」

星夜だけが、何も言わずに去っていった男たちを睨んでいた。

――敵だったはずの朱雀。

その中に、星羅へ興味を持った男が生まれた。

それが後に――。

月影と星羅の関係を大きく揺らすことになるとは、この時の誰も知らなかった。