月影に咲く、一輪の華



私は星夜の手を握ったまま、その隣を歩いた。

さっきまで身体を震わせていたのに、今は不思議なくらい落ち着いている。

星夜がいる。

それだけでいい。

星羅「……星夜」

星夜「ん?」

星羅「絶対、私から離れないでね」

星夜「……ああ」

短い返事。

でも、その手は強く握り返してくれた。

夜凪は少し前を歩きながら、ちらりと後ろを見る。

星羅はもう鎖を見ていない。

星夜の隣にぴったりくっついている。

夜凪「…………」

さっきの怯えた顔が、頭から離れない。

普段はあんなに明るくて、何でも笑い飛ばすくせに。

あんな顔をすることがあるんだ。

しかも――。

夜凪「……」

無意識に、自分の背中に残る感触を思い出す。

さっき星羅が、何も言わずに自分にくっついてきた。

あれだけ怯えていたのに。

頼る相手として、自分を選んだ。

それが少しだけ不思議だった。

豹牙「夜凪」

夜凪「何」

豹牙「お前、さっき星羅にくっつかれてた時、すげぇ顔してたぞ」

夜凪「……うるせぇ」

豹牙「嫌だったんじゃねぇの?」

夜凪「触られるのは嫌だ」

豹牙「じゃあ、なんで離さなかった?」

夜凪「…………」

答えない。

豹牙がニヤッとする。

豹牙「へぇ」

夜凪「……何だよ」

豹牙「別に」

そんな二人の後ろで、來夢も小さく笑っていた。

來夢「でも、夜凪があんなふうに声かけるの珍しかったな」

夜凪「……別に」

來夢「星羅ちゃん、怖がってたから?」

夜凪「……ああ」

今度は否定しなかった。

夜凪「……あんな顔してたら、放っとけねぇだろ」

その言葉に、來夢が少し目を丸くする。

そして前を歩く星羅を見る。

來夢「……そっか」

その頃、先頭では黒羽が足を止めていた。

黒羽「……ここだ」

目の前には、古びた扉。

その向こうから、複数の話し声が聞こえる。

そして――。

「開けろよ」

低い声が響いた。

星夜「…………」

星羅は、無意識に星夜の手を強く握る。

星羅「……行こう」

星夜「ああ」

黒羽が扉に手をかける。

ギィィ……。

ゆっくりと扉が開いていく。

その先にいたのは――。

床に座らされている、数人の桜凛高校の生徒。

そして、その周りを囲むように立つ男たち。

その中央に、一人だけ。

見覚えのない男が椅子に座っていた。

男「……やっと来たか」

男が顔を上げる。

そして――。

星羅を見た瞬間。

その目が、僅かに細くなった。

男「……へぇ」

星夜「…………」

星羅「……?」

男「噂通りだな」

その視線が、星羅から離れない。

男「星夜の姉ちゃんってのは――」

男は口元を歪めた。

男「ずいぶん面白そうな女だな」