月影に咲く、ただ1人の華


そして――。

ぎゅっ。

星羅「…………」

夜凪「……は?」

突然、背中に何かが触れる。

振り返ろうとして、夜凪の眉が寄った。

夜凪「……離れろ」

言いかけた。

女に触られるのは嫌だ。

少しは話すようになったとはいえ、こんなふうに背中に抱きつかれるのは無理だ。

そう思って振り返った。

――けれど。

夜凪「…………」

言葉が止まった。

そこにいた星羅は、いつもの星羅じゃなかった。

顔は真っ青。

唇は小さく震えている。

目には、明らかな恐怖が浮かんでいた。

まるで――。

目の前に何か恐ろしいものが見えているみたいに。

夜凪「……星羅?」

星羅「…………」

返事がない。

ただ、夜凪の制服をぎゅっと握っている。

夜凪「……おい」

いつもなら、すぐに離れろと言っている。

なのに今は言えなかった。

この状態の星羅を無理やり引き剥がすのは、何か違う気がした。

夜凪「……何が怖い」

星羅「……」

震える唇から、ようやく小さな声が漏れる。

星羅「……鎖……」

夜凪「……?」

視線を辿る。

そこには、古びた鎖。

夜凪はもう一度、星羅を見る。

そして初めて気づいた。

あの強くて、何でも笑って受け止める星羅にも――。

どうしても逃げられない恐怖がある。