月影に咲く、一輪の華


星羅「……私も行く」

星夜「駄目だ」

星羅「嫌」

星夜「姉ちゃん」

星羅「星夜が行くなら、私も行く」

星夜「……」

私は星夜をまっすぐ見つめる。

昔からそうだった。

星夜が危ない場所へ行くなら、私は絶対についていく。

だって――。

あの日、私は何もできなかったから。

まだ幼かった頃。

私たちは一緒に連れ去られた。

暗い部屋に閉じ込められて、私は身体を鎖で繋がれた。

逃げることも、動くこともできなかった。

星夜は鎖には繋がれていなかった。

だけど、部屋の扉には鍵がかかっていた。

星夜も逃げることができなかった。

目の前で、私が鎖に繋がれている。

怖くて、泣いて。

そんな星夜が私に向かって言った。

『姉ちゃん……助けて』

あの時の星夜の顔を、私は今でも忘れられない。

だから決めた。

もう二度と。

星夜をあんな顔にさせない。

私が強くなればいい。

私が守ればいい。

星羅「……もう、置いていかないから」

星夜「…………」

星夜の顔が僅かに歪む。

その言葉が何を意味しているのか。

星夜には分かっている。

自分は鎖に繋がれていなかった。

本当なら、自分が姉ちゃんを助けるべきだった。

なのに。

怖くて。

何もできなくて。

『姉ちゃん、助けて』と、逆に姉ちゃんに助けを求めた。

あの日から、星夜の中にも消えない後悔が残っている。

だから星羅が、自分を守ることに異常なほど執着していることも知っている。

星夜「……姉ちゃん」

星羅「なに?」

星夜「俺はもう、あの時の俺じゃねぇ」

星羅「……」

星夜「だから、今度は俺が守る」

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。

星羅「……私だって」

星夜「……」

星羅「今度こそ、星夜を守る」

二人の視線がぶつかる。

どちらも譲らない。

その様子を見ていた黒羽が、静かに息を吐いた。

黒羽「……なるほどな」

來夢「黒羽?」

黒羽「こいつらが互いに譲らねぇ理由が、少し分かった気がする」

豹牙「……過去に何かあったんだな」

星羅「…………」

その言葉に、私は何も答えなかった。

ただ星夜の手を握る。

星夜も、握り返してくる。

もう二度と。

あの日みたいに、何もできない自分には戻らない。

そして――。

星夜にも、あの日のように「姉ちゃん、助けて」と泣かせることは絶対にしない。

私たちは互いに、それだけを心の奥で誓っていた。