月影に咲く、一輪の華

黒羽「…………」

黒羽は何も言わなかった。

ただ、目の前にいる私をじっと見ている。

さっきまで普通に笑っていた私と、今の私は、同じ人間とは思えないくらい違う。

星羅「……黒羽?」

黒羽「……悪い」

星羅「何が?」

黒羽「ちょっと踏み込みすぎた」

星羅「ううん」

私は小さく笑う。

星羅「大丈夫だよ」

黒羽「……その顔で言われても、説得力ねぇな」

星羅「え?」

黒羽「お前、今すげぇ怖い顔してる」

私は頬に手を当てる。

星羅「そう?」

黒羽「ああ」

星羅「……変なの」

ふっと笑う。

でも、その笑顔もどこかぎこちない。

黒羽「星羅」

星羅「ん?」

黒羽「お前が星夜を大切にしてるのは分かった」

星羅「うん」

黒羽「でもな」

黒羽は私の目をまっすぐ見る。

黒羽「星夜がお前に望んでるのは、自分のために死ぬことじゃねぇと思うぞ」

星羅「…………」

その言葉だけは、胸の奥に深く刺さった。

黒羽「お前が生きて、隣で笑ってることじゃねぇのか」

星羅「……」

何も言えない。

そんなこと、考えたこともなかった。

私が生きていることを、星夜が望んでいる。

そんな当たり前のことさえ――。

星羅「……でも」

黒羽「ん?」

星羅「星夜がいなくなるくらいなら……」

唇を噛む。

星羅「私もいらない」

黒羽「…………」

黒羽の表情が変わった。

星羅「星夜がいない世界で生きる意味なんて、私にはないから」

自分でも分かっている。

おかしいことくらい。

だけど、怖い。

星夜を失うことを想像するだけで、息ができなくなる。

あの日のことを思い出す。

小さな手。

泣いている声。

助けられなかった自分。

星羅「……私がもっと強ければ」

黒羽「星羅」

星羅「もう二度と、あんなことにならないようにって……」

黒羽「星羅」

今度は少し強い声だった。

私は顔を上げる。

黒羽「お前は、もう十分強ぇよ」

星羅「…………」

黒羽「だから、自分まで壊すな」

その言葉に、胸が締めつけられた。

私は何も返せない。

ただ、黒羽を見つめる。

しばらくして、黒羽がふっと笑った。

黒羽「……まあ、難しい話はここまでだ」

星羅「え?」

黒羽「腹減ってんだろ?」

星羅「あ……」

そういえば。

私たちは購買へ向かっていたんだった。

星羅「……うん。めっちゃお腹すいた」

黒羽「ははっ。切り替え早ぇな」

星羅「だってお腹空いたんだもん!」

黒羽「じゃあ急ぐか」

星羅「うん!」

私はいつものように笑った。

だけど黒羽は知ってしまった。

この笑顔の奥に――。

星夜を失うことへの、異常なほどの恐怖が隠れていることを。