月影に咲く、一輪の華


星羅「……ねぇ」

黒羽「ん?」

星羅「なんかお腹すいた」

來夢「……今?」

星羅「うん。めっちゃお腹すいた」

豹牙「さっき昼飯食っただろ」

星羅「もう食べたのは結構前だもん」

そう言いながら、お腹を押さえる。

本当にお腹が空いてきた。

星羅「黒羽、購買行かない?」

黒羽「俺と?」

星羅「うん!」

黒羽は少しだけ目を丸くしたあと、ふっと笑った。

黒羽「いいぜ」

星羅「やった!」

黒羽「ちょうどお前と話したいこともあったしな」

星羅「何か話したいこと?」

黒羽「ああ。歩きながら話そう」

星羅「分かった!」

私は立ち上がる。

星羅「じゃあ行ってきまーす!」

來夢「気をつけてな」

琉生「星羅さん、いってらっしゃい!」

星羅「うん!琉生、何か欲しいものある?」

琉生「えっ、いいんですか?」

星羅「うん!買ってくるよ!」

琉生「じゃあ……パンお願いします!」

星羅「任せて!」

黒羽「お前、自分の分だけじゃねぇのかよ」

星羅「だって琉生もお腹すいてるんだもん」

黒羽「はいはい」

二人で屋上を出る。

扉が閉まった瞬間、屋上の喧騒が遠ざかった。

廊下を並んで歩く。

しばらくは、私も黒羽も何も話さなかった。

でも――。

黒羽「星羅」

星羅「ん?」

黒羽「さっきの話なんだけどな」

星羅「うん」

黒羽「お前、本当に星夜を守るためなら死ねるのか?」

足が止まった。

星羅「…………」

黒羽「昼間も言ってたよな」

黒羽が私を見る。

黒羽「『命に変えても守りたい』って」

星羅「……うん」

黒羽「それって、星夜が傷つくくらいなら、自分が死んでも構わないってことか?」

星羅「…………」

私は黙った。

胸の奥が、ざわざわする。

黒羽「星羅。お前は――」

少しだけ言葉を選ぶように間を置く。

黒羽「自分の命より、星夜の命の方が大事なのか?」

星羅「…………当たり前じゃん」

声が、少し震えた。

黒羽「……」

星羅「星夜が生きてくれるなら、私はどうなったっていいよ」

笑おうとする。

でも、口元だけが歪んだ。

星羅「だって……私が守らなきゃ」

黒羽「誰から?」

星羅「……全部」

黒羽「全部?」

星羅「星夜を傷つけるもの、全部」

目の奥が、冷たくなる。

星羅「だって、私が守らないと……また……」

言葉が途切れた。

黒羽「……また?」

星羅「…………」

私は俯く。

指先が小さく震えている。

星羅「……もう二度と、あんなことにはさせない」

黒羽「星羅」

星羅「絶対に」

顔を上げる。

そこにあったのは、いつもの無邪気な笑顔じゃなかった。

星羅「星夜だけは……絶対に失わない」

その瞳には、強い執着と――どこか壊れたような光が宿っていた。