月影に咲く、一輪の華

教室に戻ってから、私は真面目に授業を受けていた。

……最初の十分くらいは。

星羅「…………」

黒板を見つめる。

先生の声を聞く。

ノートもちゃんと取っている。

でも――。

星羅「……眠い」

ぽかぽかした午後の陽気と、昼ご飯を食べた満腹感。

それに加えて、午前中からずっと動き回っていたせいで、まぶたがどんどん重くなっていく。

叶多「おい」

星羅「んー?」

隣から小声で呼ばれる。

叶多「寝るなよ」

星羅「寝てないよ」

叶多「目閉じてただろ」

星羅「考え事してたの」

叶多「何を?」

星羅「……星夜」

叶多「やっぱ寝ろ」

星羅「ひどい!」

思わず笑いそうになって、慌てて口元を押さえる。

先生「そこ、静かに」

星羅「すみません!」

叶多「ほら」

星羅「叶多のせいじゃん」

叶多「俺は注意しただけだろ」

小声で言い合っていると、前の席の男子が振り返った。

「なぁ星羅」

星羅「ん?」

「昼休み、月影の奴らといつも一緒にいるの?」

星羅「うん!」

「やっぱり?」

星羅「みんなすごく仲良くしてくれるよ!」

「……月影って怖くない?」

星羅「え?」

「だって、学校でも有名じゃん」

星羅「そうなの?」

「知らないのかよ」

星羅「うん。昨日まで何も知らなかった!」

「……マジか」

男子が呆れたような顔をする。

でも私は気にせず、また黒板へ視線を戻した。

星羅「みんな優しいよ?」

そう言うと、叶多が隣で小さく笑った。

叶多「まあ……お前に対してはな」

星羅「どういう意味?」

叶多「そのうち分かる」

星羅「またそれ?」

頬を膨らませる。

すると、後ろから別の男子が声をかけてきた。

「星羅、放課後って暇?」

星羅「放課後?」

「うん。ちょっと付き合ってほしいんだけど」

星羅「いいよ!」

叶多「……おい」

星羅「何?」

叶多「お前、もうちょっと考えてから返事しろよ」

星羅「なんで?」

叶多「いや……」

叶多は何か言いかけて、やめた。

そのとき――。

教室の後ろのドアが開く。

先生「ん?」

全員が振り返る。

そこに立っていたのは、見覚えのある男子だった。

「星羅」

星羅「……え?」

男子は私を見る。

「ちょっと来て」

星羅「誰?」

叶多「……お前、月影の奴だろ」

男子「そうだけど」

叶多「星羅に何の用?」

男子は答えず、ただ私を見る。

「黒羽さんたちが呼んでる」

星羅「黒羽が?」

その瞬間、眠気なんて一気に吹き飛んだ。

星羅「分かった!」

私は勢いよく立ち上がった。