月影に咲く、一輪の華


その一言に、みんなの視線が夜凪へ集まる。

來夢「夜凪がそんなに喋るの、珍しいな」

夜凪「……星羅がいないからな」

豹牙「は?」

夜凪「いると、あいつが勝手に喋るだろ」

黒羽「確かにな」

來夢「星羅ちゃん、ずっと喋ってるもんな」

朔夜「それでも、今日はよく話している方だ」

夜凪「……別に」

そう言いながらも、夜凪はフェンスの向こうを見つめている。

夜凪「ただ……気になる」

黒羽「何が?」

夜凪「さっきの顔」

その言葉に、空気が変わった。

豹牙「……殺気のことか?」

夜凪「ああ」

夜凪「普段のあいつからは、想像できない」

來夢「俺も、正直びっくりした」

朔夜「怒っているというより……何かを守ることだけに集中していたな」

夜凪「……そう」

夜凪は短く返した。

そして少し黙ったあと、ぽつりと続ける。

夜凪「星夜のためなら、自分がどうなってもいいって顔だった」

星夜「…………」

星夜の拳が、僅かに握られる。

黒羽「……やっぱり、お前もそう思うか」

星夜「ああ」

來夢「星夜」

星夜「……姉ちゃんは昔からそうだ」

低い声。

星夜「俺のことになると、自分のことを後回しにする」

豹牙「昔から?」

星夜「ああ」

星夜は少しだけ目を伏せる。

星夜「俺が怪我すれば、自分の怪我なんか放って俺のところに来る」

星夜「俺が泣けば、何があっても笑わせようとする」

星夜「……自分が泣いててもな」

誰も口を挟まなかった。

星夜「だから……あいつが『守る』って言った時は、俺は守られる側になんかなりたくねぇ」

來夢「……星夜」

星夜「俺だって、姉ちゃんを守りたい」

その言葉に、黒羽が静かに頷く。

黒羽「……そうだな」

豹牙「じゃあ、俺らも同じだろ」

星夜「……?」

豹牙「まだ二日しか経ってねぇけどよ」

豹牙は屋上の扉を見る。

豹牙「もうあいつ、俺らの仲間みてぇなもんだろ」

朔夜「……同感だ」

來夢「俺も」

琉生「俺もです」

最後に、夜凪が静かに口を開く。

夜凪「……俺も」

星夜「…………」

黒羽が笑う。

黒羽「決まりだな」

黒羽「星羅が星夜を守るなら――」

一度言葉を切る。

黒羽「俺たちは、星羅も守る」

誰も反対しなかった。

その頃、何も知らない星羅は教室で――。

星羅「……眠い」

机に頬杖をつきながら、大きなあくびをしていた。