月影に咲く、一輪の華

教室に入ると、叶多が呆れたような顔で私を見る。

叶多「で? 今度は何したんだよ」

星羅「だから何もしてないってば!」

叶多「じゃあ、なんであんなに人集まってたんだ?」

星羅「友達になりたいって言われたから、いいよって言っただけ!」

叶多「……」

叶多が数秒黙ったあと、深いため息をつく。

星羅「何?」

叶多「お前さ……」

星羅「うん?」

叶多「本当に自覚ないんだな」

星羅「何の?」

叶多「もういい」

星羅「えぇ!?」

叶多は呆れたように笑いながら、自分の席へ戻っていく。

私はその背中を見ながら首を傾げる。

なんでみんな、私が何かすると変な反応するんだろう?

私はただ普通に話して、普通に笑ってるだけなのに。

そんなことを考えていると、教室の前から男子の声が聞こえてきた。

「星羅、昼休みってどこで食うんだ?」

星羅「え?」

振り返ると、さっき廊下で話しかけてきた男の子が立っている。

星羅「お昼?」

男「うん」

星羅「いつも星夜たちと屋上で食べてるよ!」

男「へぇ……」

すると、別の男子が口を挟んだ。

「じゃあ俺も行っていい?」

星羅「もちろん!」

「俺も!」

「俺も行きたい!」

星羅「いいよ!」

気づけば、また何人か集まってくる。

叶多「……」

叶多が遠くから私を見ている。

星羅「叶多も来る?」

叶多「俺はいい」

星羅「そっか!」

叶多「昼休みくらいはゆっくりしろよ」

星羅「うん!」

叶多はそれ以上何も言わず、教科書を机にしまい始める。

私は集まってきた男子たちと話しながら、ふと思う。

昨日まで誰も私のことを知らなかったのに。

今日は、こんなにたくさんの人が話しかけてくれる。

友達が増えるのって、楽しいな。

星羅「みんな、お昼になったら一緒に行こうね!」

「おう!」

「楽しみ!」

そんな声が返ってくる。

私は嬉しくなって笑った。

――その頃。

別の教室では、星夜の周りにも同じように噂が広がっていた。

「星夜、お前の姉ちゃん、めちゃくちゃ人気じゃん」

星夜「…………」

「今日も朝からすげぇ人に囲まれてたぞ」

星夜「……そうかよ」

「お前、心配じゃねぇの?」

星夜は少しだけ目を細める。

星夜「……別に」

そう答えたものの。

昨日から、ずっと頭に残っている。

――命に変えても守りたいものがある。

姉ちゃんがあんな言葉を口にした理由を、俺は知っている。

だからこそ。

星夜「…………」

誰にも、姉ちゃんを傷つけさせたくなかった。