月影に咲く、一輪の華

星羅は、しばらく画面を見つめたまま動けなかった。

『はるちゃん、今起きてる?』

たったそれだけ。

なのに、送信する指がなかなか動かない。

星羅「…………えいっ」

送信。

送ってしまった。

星羅「…………」

心臓がどくどく鳴る。

すると――。

ピコン。

星羅「……!」

あまりにも早い返信に、星羅は慌てて画面を開く。

遥愛『起きてますよ。どうしました?』

星羅「…………」

星羅は少しだけ迷ってから、正直に打った。

星羅『なんか、はるちゃんの声聞きたくなって』

送った瞬間、自分で恥ずかしくなる。

星羅「……私、何言ってるんだろ」

けれど――。

すぐに電話がかかってきた。

星羅「……!」

慌てて通話ボタンを押す。

星羅「……もしもし?」

遥愛『こんばんは』

その声を聞いた瞬間。

胸の奥が、ふっと落ち着いた。

星羅「……はるちゃん」

遥愛『はい』

星羅「なんか……声聞いたら安心した」

遥愛『……そうですか?』

星羅「うん」

少し沈黙が流れる。

星羅「今日ね、星夜にずっと相談してたの」

遥愛『はい』

星羅「みんなのこと考えてたら、誰かを選ぶのが怖くなって……」

遥愛『…………』

星羅「でもね」

星羅は布団の中で、胸元をぎゅっと握る。

星羅「今日、一番会いたいって思ったの……」

そこで言葉が止まる。

遥愛『…………』

星羅「……はるちゃんだった」

電話の向こうが、静かになる。

遥愛『……星羅さん』

星羅「……うん」

遥愛『それは……』

遥愛も言葉を探しているようだった。

遥愛『俺には、嬉しすぎる言葉です』

星羅「…………」

星羅の頬が熱くなる。

遥愛『でも、まだ答えを出さなくていいですよ』

星羅「……どうして?」

遥愛『星羅さんがちゃんと自分で答えを見つけるまで、待ちます』

星羅「…………」

その優しさに、また胸が締め付けられる。

星羅「……はるちゃんって、ずるいね」

遥愛『え?』

星羅「そんなこと言われたら……もっと好きになっちゃいそう」

遥愛「…………」

今度は遥愛が黙る。

星羅「……あ」

自分で言ってから、星羅は固まった。

――今、私。

「好きになっちゃいそう」って言った?

遥愛『……星羅さん』

星羅「……な、何?」

遥愛『俺も、もう我慢しないことにします』

星羅「……え?」

遥愛『今まで待つつもりでした』

遥愛『でも……俺も、星羅さんにちゃんと好きになってもらえるようにします』

星羅「…………」

遥愛の声は、いつもより少しだけ低かった。

優しいのに、どこか強い。

遥愛『覚悟しておいてください』

星羅「…………っ」

電話を切ったあとも、星羅はしばらくスマホを胸に抱えたまま動けなかった。

星羅「……どうしよう」

顔が熱い。

胸が苦しい。

でも――。

嫌じゃない。

むしろ。

星羅「……嬉しい」

その夜、星羅は初めてはっきりと思った。

もしかしたら私は、もう――。

その先の言葉だけは、まだ口にできなかった。