月影に咲く、一輪の華

その夜。

星羅は星夜に抱きしめられたまま、ぽつぽつと話し続けていた。

星羅「……豹牙は、ずっと私のこと守ってくれてたでしょ」

星夜「うん」

星羅「來夢はいつも話を聞いてくれて……朔夜も優しくて、黒羽も黙ってるけどちゃんと見ててくれて……」

一人ずつ思い浮かべるたびに、胸が苦しくなる。

星羅「夜凪も……最近すごく変わった」

星夜「うん」

星羅「最初は私のこと受け入れてくれなかったのに……今は自分から隣に来てくれる」

星夜「……そうだな」

星羅「だから、みんなの気持ちを知ったら……誰かだけ選ぶなんて、できないよ」

星夜「…………」

星羅「みんなを傷つけたくない」

星夜は少し考えてから、星羅の頭を撫でる。

星夜「でもさ」

星羅「ん?」

星夜「姉ちゃんが誰かを選ばないことが、みんなにとって一番いいとは限らないよ」

星羅「…………」

星夜「好きな人に選ばれたいって思うのも、きっとみんなの本音だと思う」

星羅「……うん」

星夜「だから、姉ちゃんが誰かを選んで誰かが傷つくことを、全部姉ちゃんの責任にしなくていい」

星羅「…………」

星夜「それでも悩むなら、ゆっくり考えればいい」

星羅は黙ったまま星夜の服を握る。

そしてしばらくして――。

星羅「……私ね」

星夜「うん」

星羅「今日、はるちゃんに相談して……」

少しだけ頬が熱くなる。

星夜「…………」

星羅「帰ってきてから、ずっと考えてた」

星夜「何を?」

星羅「もし今、誰か一人に会えるなら……誰に会いたいかなって」

星夜「……それで?」

星羅「…………」

星羅は答えない。

ただ、胸の奥に浮かんだ名前を思い出していた。

会いたい。

声を聞きたい。

顔を見たい。

今日あんなに一緒にいたのに――。

もう一度会いたい。

それに気づいた瞬間、星羅の胸が大きく鳴った。

星羅「……私」

星夜「うん」

星羅「もしかしたら……」

そこまで言って、星羅は口を閉じる。

まだ怖い。

この気持ちに名前をつけてしまったら、本当に誰かを選ばなければいけなくなる気がした。

星夜は急かさなかった。

ただ、もう一度星羅を抱きしめる。

星夜「今日はそこまででいい」

星羅「……うん」

星羅は星夜の胸に顔を埋める。

星羅「もう少しだけ、ここにいていい?」

星夜「もちろん」

星羅「ありがとう……」

その夜、星羅はなかなか眠れなかった。

何度もスマホを手に取っては、同じ名前を眺める。

そして――。

指先が、ゆっくり画面をタップした。

星羅「…………」

送ろうとしているメッセージは、たった一言。

『はるちゃん、今起きてる?』

星羅は送信ボタンを押す直前で、また止まった。

胸が、うるさい。

――どうして。

ただ連絡するだけなのに。

こんなに緊張するんだろう。

そして星羅はまだ知らなかった。

この小さな一歩が――。

自分の気持ちに、初めて真正面から向き合うきっかけになることを。