月影に咲く、一輪の華


朱雀の倉庫を出て、月影の倉庫へ戻る頃には――。

星羅の顔から、いつもの明るさが消えていた。

扉を開ける。

星羅「……ただいま」

星夜「おかえり。遥愛に相談どうだった?」

星羅「……うん」

それだけ答えると、星羅は真っ直ぐ星夜のところへ向かった。

そして――ぎゅっ。

星夜「……姉ちゃん?」

星羅は何も言わず、星夜に抱きついた。

星夜「……どうした?」

星羅「…………」

返事がない。

ただ、星夜の服をぎゅっと掴んでいる。

星夜「……そんなに悩んでるの?」

星羅「……うん」

星夜は何も聞かず、そのまま星羅を抱きしめる。

星羅「みんな……本気だった」

星夜「うん」

星羅「私、全然気づいてなかった……」

星夜「うん」

星羅「みんなが私のこと好きだなんて……思ってなかった」

声が少し震える。

星羅「だから……どうしたらいいか分からない」

星夜「…………」

星羅「誰かを選んだら、他のみんなを傷つけるんでしょ?」

星夜「……そうかもしれない」

星羅「それが嫌なの」

星羅は星夜の胸元に顔を埋める。

星羅「みんな大切なのに……」

星夜「うん」

星羅「みんなに幸せになってほしいのに……私が誰かを選んだら……」

声が詰まる。

星夜は何も急かさなかった。

ただ、星羅の頭をゆっくり撫でる。

星夜「泣いていいよ」

星羅「……泣きたくない」

星夜「なんで?」

星羅「泣いたら……もっとみんなを困らせそう」

星夜「姉ちゃん」

星羅「……ん?」

星夜「今、一番困ってるのは姉ちゃんだろ」

星羅「…………」

星夜「だったら、俺の前では無理しなくていい」

星羅の目に涙が溜まる。

星羅「……星夜」

星夜「うん」

星羅「私、どうしたらいいのかな」

星夜「すぐ答え出さなくていい」

星羅「でも……」

星夜「みんなが待ってくれる」

星羅「…………」

星夜「それに、姉ちゃんが誰を選んだって、俺は姉ちゃんの味方だから」

星羅「……ほんと?」

星夜「当たり前」

星羅「……ありがとう」

星夜「うん」

星羅はそのまま星夜にくっついている。

しばらくすると、ぽろっと涙が落ちた。

星夜「……泣いていいって言っただろ」

星羅「……だってぇ……」

星夜「うん」

星羅「みんな優しいから……余計選べない……」

星夜「そうだな」

星羅「私、どうしよう……」

星夜「一緒に考えよう」

星羅「…………うん」

星夜はずっと星羅を抱きしめたまま、話を聞き続けた。

誰がどんな言葉をくれたのか。

自分はそれを聞いてどう思ったのか。

誰といる時に安心するのか。

誰と離れると寂しいのか。

一つ一つ、星羅の言葉を聞いていく。

そして星羅自身も――。

話していくうちに、少しずつ気づき始めていた。

自分の心の中にある、ほんの小さな違いに。

まだ、それが「答え」なのかは分からない。

けれど――星羅の心は、確実に一人の名前を意識し始めていた。