月影に咲く、一輪の華



翌朝。

星羅「おはよー!」

いつも通り明るい声で倉庫に入ってきた星羅に、月影のメンバーが振り返る。

星夜「おはよ」

星羅「みんな昨日大丈夫だった?」

豹牙「それはこっちの台詞だろ」

星羅「え?」

豹牙「昨日あんだけ動いてたのに」

星羅「ああ、全然平気!」

そう言って笑う星羅。

けれど、昨日の光景を思い出した月影のメンバーは、なんとなく星羅を見つめてしまう。

星羅「……何?」

來夢「いや」

朔夜「昨日の星羅ちゃん、すごかったなって」

星羅「昨日?」

黒羽「遥愛を守ってた時」

星羅「……ああ」

星羅は少しだけ目を伏せる。

星羅「だって、はるちゃん殴られたから」

星夜「それで、あんなに怒ったんだ」

星羅「うん」

星羅は当たり前のように答える。

星羅「目の前で大事な人が殴られたら、守るでしょ?」

豹牙「…………」

夜凪「…………」

星羅は昨日のことを思い出す。

遥愛の前に立ったこと。

遥愛を自分の背中に隠したこと。

そして――。

「遥愛は、私の後ろにいて」

そう言った自分。

星羅「……はるちゃん、ちゃんと後ろにいてくれたんだよ」

星夜「そりゃ姉ちゃんがあんな顔してたらな」

星羅「ふふっ」

その時。

ピコン。

スマホが鳴った。

星羅「……!」

画面を見た瞬間、星羅の顔がぱっと明るくなる。

星羅「はるちゃんだ!」

星羅は嬉しそうにメッセージを開く。

遥愛『昨日はありがとうございました。もう頬もほとんど痛くありません』

星羅『ほんと? よかったぁ♡』

遥愛『星羅さんも、昨日はありがとうございました』

星羅『どういたしまして♡』

星羅は満足そうにスマホを閉じる。

星羅「……よかった」

夜凪「…………」

その様子を、夜凪は黙って見ていた。

昨日、星羅が遥愛を守るために前へ出た姿。

あの時の星羅は、怖いくらい強かった。

でも――。

今、遥愛から連絡が来ただけで嬉しそうに笑っている星羅も、夜凪には眩しく見えた。

夜凪「……星羅」

星羅「ん?」

夜凪「昨日みたいな時」

星羅「うん?」

夜凪「俺がいたら……俺のことも頼って」

星羅「…………」

夜凪はいつもの無表情。

けれど、声だけは少し柔らかかった。

夜凪「星羅が誰かを守ろうとするのは分かった」

星羅「うん」

夜凪「でも……星羅が傷つくのは嫌だから」

星羅「…………」

夜凪「次は俺が、星羅の前に立つ」

星羅は目を丸くする。

星羅「夜凪……」

夜凪「……約束する」

星羅「…………」

胸が、きゅっとする。

昨日、自分が遥愛にしたことと同じ。

大切な人を守るために、前に立つ。

それを夜凪は、自分に言っている。

星羅「……ふふっ」

星羅は嬉しそうに笑って、夜凪の腕へぎゅっと抱きついた。

夜凪「…………!」

星羅「ありがとう」

夜凪「……うん」

星羅「でもね」

顔を上げる。

星羅「夜凪が傷つくのも嫌だから、無茶はしないでね?」

夜凪「…………」

一瞬、夜凪が固まる。

そして――。

ほんの少しだけ口元が緩んだ。

夜凪「……分かった」

星羅「約束ね」

夜凪「約束」

そんな二人を見ていた豹牙が、ぽつりと呟く。

豹牙「……こいつ、完全に落ちてんな」

星夜「うん」

來夢「しかも星羅ちゃんも、ちょっと意識し始めてる」

星羅「何の話?」

豹牙「何でもねぇ」

星羅「変なの」

星羅は笑う。

けれど――自分の胸に残った小さな高鳴りには、まだ気づかないふりをしていた。