月影に咲く、一輪の華

戦いが終わってしばらくすると、倉庫の中にも少しずつ落ち着きが戻ってきた。

星羅は最後まで遥愛の怪我を気にしていた。

星羅「はるちゃん、頬まだ痛くない?」

遥愛「もう大丈夫です」

星羅「ほんと?」

遥愛「はい」

星羅「……ならよかった」

それでも心配そうに遥愛の顔を覗き込む。

やがて、帰る時間になる。

星羅「じゃあ、私たち帰るね」

紅蓮「ああ」

星羅は遥愛を見る。

星羅「はるちゃん」

遥愛「はい?」

星羅「今日はもう絶対に外に出ないでね」

遥愛「……はい?」

星羅「絶対だよ?」

遥愛「分かりました」

星羅「約束!」

遥愛「約束です」

星羅はようやく安心したように笑う。

星羅「じゃあ、またね。はるちゃん」

遥愛「はい。また」

月影のメンバーと一緒に、星羅が倉庫を出ていく。

扉が閉まる。

――その直後。

遥愛は、しばらく何も言わずに扉を見つめていた。

紅蓮「……遥愛?」

遥愛「…………」

紅蓮「どうした?」

遥愛「……いや」

遥愛は少しぼんやりしたまま、ぽつりと呟く。

遥愛「喧嘩が強いとは聞いてたんですけど……」

紅蓮「うん」

遥愛「実際にしてるところを見るのは初めてで」

少し間を置く。

遥愛「……びっくりしました」

紅蓮「まぁ、そうだろうな」

遥愛「守られるって……こんな感じなんですね」

その言葉に、紅蓮が少しだけ目を細める。

遥愛「星羅さん……俺の前に立ったじゃないですか」

紅蓮「……ああ」

遥愛「俺も朱雀のメンバーだから、戦えるって言ったのに」

遥愛は自分の手を見る。

遥愛「『遥愛は私の後ろにいて』って」

その時の星羅の真剣な表情を思い出す。

遥愛「……あんな顔、初めて見ました」

紅蓮「…………」

遥愛「いつもの星羅さんと全然違って」

遥愛は小さく笑った。

遥愛「普段はあんなに明るくて、俺のこと『はるちゃん』って呼んで……ずっと笑ってるのに」

遥愛「喧嘩してる時は……」

言葉を探すように少し黙る。

遥愛「……すごく、格好よかったです」

紅蓮「…………」

遥愛「俺を守るために、あんなに怒ってくれたんだって思ったら……」

遥愛は、閉じた扉を見る。

遥愛「……なんか、忘れられなくなりそうです」

紅蓮はしばらく黙っていた。

そして――。

紅蓮「……そりゃ、お前も落ちるわな」

遥愛「……え?」

紅蓮「何でもねぇよ」

遥愛「…………?」

紅蓮は笑って誤魔化す。

けれど遥愛は、もう一度だけ扉を見る。

遥愛「……星羅さん」

小さく呟いた。

今日、初めて知った。

守ってもらうことが、こんなにも心を揺らすものだということを。

そして――。

いつもの可愛い星羅とは違う、“強い星羅”の姿が、遥愛の中に深く残っていた。