月影に咲く、一輪の華

しばらくの間、星羅は遥愛を抱きしめたままだった。

遥愛「……星羅さん」

星羅「……ん」

遥愛「もう大丈夫ですよ」

星羅「…………」

遥愛「俺、ここにいますから」

その言葉を聞いても、星羅はすぐには離れなかった。

むしろ、もう一度だけ腕に力を込める。

星羅「……ほんとに?」

遥愛「はい」

星羅「痛くない?」

遥愛「もう大丈夫です」

星羅「……よかった」

ようやく少しだけ顔を上げる。

遥愛の頬にはまだ赤みが残っている。

それを見た瞬間、星羅の表情がまた曇った。

星羅「…………」

遥愛「?」

星羅は何も言わず、赤くなった頬を指先でそっと撫でる。

星羅「……嫌だった」

遥愛「何がですか?」

星羅「はるちゃんが殴られたの」

遥愛「…………」

星羅「見た瞬間、頭真っ白になった」

遥愛は黙って星羅を見る。

星羅「私ね、みんなが傷つくのも嫌だけど……」

一度言葉を止める。

星羅「はるちゃんが傷つくのは、もっと嫌」

遥愛「…………」

その言葉に、遥愛の目が少し揺れる。

星羅はそんなことには気づかず、また遥愛の胸元へ顔を寄せた。

星羅「だから、もう誰にも傷つけさせない」

遥愛「……はい」

星羅「私が絶対守る」

遥愛「……ありがとうございます」

紅蓮は少し離れた場所から二人を見ていた。

いつものように茶化そうとは思わなかった。

瑛翔も、朧も、刹那も同じだった。

そして――。

星羅がようやく遥愛から少しだけ離れた時。

遥愛「……星羅さん」

星羅「ん?」

遥愛「俺も、星羅さんが傷つくのは嫌です」

星羅「…………」

遥愛「だから、無茶しないでください」

星羅「……でも」

遥愛「約束してください」

真っ直ぐ見つめられて、星羅は少し困ったように笑う。

星羅「……分かった」

遥愛「本当ですか?」

星羅「うん」

そして星羅は、小指を差し出す。

星羅「約束」

遥愛も小指を絡める。

遥愛「約束です」

星羅「ふふっ」

その瞬間。

紅蓮「……お前ら」

二人が振り返る。

紅蓮「そろそろ俺たちの存在も思い出してくれ」

星羅「……あ」

瑛翔「やっと気づいた!?」

星羅「あはは、ごめん!」

瑛翔「いや、いいけどさ……」

瑛翔は少しだけ遥愛を見る。

そして、ため息をついた。

瑛翔「……今日は何も言えねぇわ」

朧「うん」

刹那「……ああ」

星羅「?」

星羅は首を傾げる。

そしてまた遥愛を見る。

星羅「……はるちゃん、今日はもう一人にしないからね」

遥愛「え?」

星羅「帰るまでずっと一緒にいる」

遥愛「…………」

星羅は当たり前のように遥愛の手を握った。

その瞬間――。

月影のメンバーが、静かに顔を見合わせる。

夜凪だけは、少し離れた場所から二人を見つめていた。

昨日までなら、きっと何も思わなかった。

けれど今は違う。

星羅が誰かをこんなふうに守ろうとする姿を見てしまった。

そして同時に――。

自分もいつか、星羅にそんな顔をさせたいと思ってしまった。

夜凪「…………」

まだ、譲るつもりはない。

その目には、静かな闘志が宿っていた。