月影に咲く、一輪の華



パフェを食べ終えた星羅たちは、そのままみんなで街を歩いていた。

星羅「美味しかったぁ」

星夜「満足した?」

星羅「うん!」

豹牙「じゃあ帰るか」

星羅「うん」

さっきまで星羅は、みんなと楽しそうに話していた。

ところが――。

少し先から、怒鳴り声が聞こえた。

「朱雀の奴だろ?」

「一人で歩いてるじゃねぇか」

星羅「……?」

何気なくそちらへ目を向けた瞬間。

星羅の足が止まった。

そこにいたのは――遥愛。

男たちに囲まれている。

相手は遥愛が朱雀のメンバーだと知って、喧嘩を売っているようだった。

遥愛「……俺は喧嘩するつもりはありません」

「うるせぇ!」

次の瞬間。

拳が遥愛の頬を打った。

星羅「――――っ」

星羅の表情が消える。

星夜「姉ちゃん……?」

次の瞬間には、星羅は走り出していた。

星羅「はるちゃん!!」

遥愛「……星羅さん!?」

星羅は遥愛の前に立ち、その身体を背中へ隠す。

星羅「……はるちゃん、下がってて」

遥愛「でも……」

星羅「いいから」

声が低い。

さっきまでの穏やかな星羅とは別人だった。

男「なんだ、お前」

星羅「…………」

星羅はゆっくり男を見る。

星羅「……私の大事な人に、何してるの?」

男「は?」

星羅「許さない」

そこからは一瞬だった。

向かってきた男の腕をかわし、身体を捻る。

ドッ――!

男が地面へ倒れる。

もう一人が飛び込んでくる。

星羅「……邪魔」

こちらもあっという間に倒される。

残った男たちも、星羅の殺気に圧されて後ずさる。

豹牙「……久々に見たな」

來夢「本気で怒ってる……」

星夜「…………」

星羅は倒れた男たちにはもう目もくれなかった。

すぐに遥愛へ振り返る。

星羅「はるちゃん」

遥愛「…………」

星羅は遥愛の頬を見る。

殴られた場所が赤くなっている。

星羅「……痛い?」

遥愛「大丈夫です」

星羅「大丈夫じゃない」

そっと頬に触れる。

星羅「……赤くなってる」

遥愛「これくらいなら――」

星羅「ダメ」

星羅の声が震えていた。

星羅「手当てしよう」

そして遥愛の手を握る。

星羅「朱雀に行こう」

遥愛「……はい」

二人の後ろを、月影のメンバーもついていく。

やがて朱雀の倉庫に到着した。

扉が開く。

紅蓮「……ん?」

朧「星羅?」

瑛翔「どうしたんだよ、急に?」

刹那「…………?」

星羅は何も答えなかった。

紅蓮「おい、星羅?」

それでも――。

星羅は誰の声も聞いていない。

頭の中には、さっき見た光景しかなかった。

遥愛が殴られた。

それだけでいっぱいだった。

星羅「……座って」

遥愛「星羅さん?」

星羅「いいから」

星羅は救急箱を取り出す。

遥愛の頬を冷やし、傷を確認する。

星羅「……ここ、痛い?」

遥愛「少しだけ」

星羅「ごめんね……」

遥愛「どうして星羅さんが謝るんですか」

星羅「だって……」

星羅の目が少し潤む。

星羅「私、もっと早く助けられたらよかった」

遥愛「…………」

遥愛が困ったように笑う。

遥愛「俺は大丈夫です」

星羅「…………」

星羅は何も言わない。

手当てが終わる。

そして――。

ぎゅっ。

星羅は遥愛に抱きついた。

遥愛「……星羅さん?」

星羅「…………」

いつものような、嬉しそうな抱きつき方ではない。

ただ、遥愛を守るように腕を回している。

まるで、自分の腕の中に閉じ込めてしまえば、もう誰にも傷つけられないと思っているみたいに。

紅蓮「…………」

瑛翔「…………」

朧「…………」

刹那「…………」

誰も茶化さない。

星羅「……もう誰にも傷つけさせない」

遥愛「…………」

星羅「絶対に」

ぎゅっと抱きしめる。

星羅「私が守るから」

遥愛「……星羅さん」

星羅「だから……」

星羅は遥愛の胸元に顔を埋めた。

星羅「もうちょっとだけ、このままでいさせて」

遥愛はしばらく黙っていた。

そして――そっと星羅の頭へ手を置く。

遥愛「……はい」

星羅「…………」

遥愛「落ち着くまで、ずっとこうしてます」

星羅は何も言わなかった。

ただ、遥愛を離さなかった。

その姿を見つめながら、朱雀のメンバーも月影のメンバーも、言葉を失っていた。

さっきまでの星羅とは違う。

デレデレでも、甘えているわけでもない。

ただ――大切な人を傷つけられたことが、悔しくて、怖くて、守りたくて仕方がない。

その感情だけで、星羅は遥愛を抱きしめ続けていた。